コンテナガレージ

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赤が染色、変色 11

 彼女は咄嗟にこの場を取りまとめる手段を二つ考え出せた、二つの提案を吟味する間にもう二つの提案を考え出す。

「血が噴出したようにモニターには映ってたが、うーん」ステージ袖のカワニは大きく呟く、声を伸ばす。カメのように首が稼働域の限界に達する。「んんんっ?あれは、血じゃない!?」

 現実に都合よく置き換えた、危険が排除された安全な事象をまっさらな目で見直すと、人はこれまで生き延びた感覚器官、生存競争の賜物を即座に開眼させては、退避に走ろうとしたこの場への滞在を許可する、自らに向けて。

 客席に伝播した恐怖と不可解の波が穏やかに安心を運ぶ。騒然から喧騒を経て現在は囁きに至る。

 柵内部に入るスタッフが観客たちの体調を尋ねた、その間に一人女性が連れ出された。開けた空間を他のスタッフが迅速に床の赤い汚れ、塗料のような粘性の高い液体をふき取る。水を汲んだバケツが送り込まれる、五分ほどで柵は閉じられた。観客の一部は、体の各所に赤い斑点をつける。

 アイラの斜め下で連れ出される女性は付き添われ重い足取りで遠ざかる。アイラは女性に問いかけた。

「最後まで見ていかれないのですか?」女性が止まる、痩せた頬、落ち窪んだ瞼が見上げる。削がれた意識、光のない黒目、半開きの乾いた唇、魂が抜けた全身の喪失、女性は無言で嫌々をするように首を横に動かした。

「見ておきなさい。椅子を用意します、カワニさん、パイプ椅子を柵の前に」

「は、はい」

「体調を崩された方にライブを観てもらうため、特別な措置を今回に限り取りたいと思います」アイラはマイクを通じて観客に伝えた。身に降りかかる間際に過ぎ去った出来事の把握と処理に戸惑う視線、バラバラの指向が集まる。「皆さんの同意を得たいと思います。彼女は不可抗力によって自力で立つことは用意ではなく、しかしこの場に居続ける権利は所有した状態です。座っていれば、体調は回復するでしょう、みてください。時間は折り返し地点を廻ったあたり、せっかくのライブ、しかも初のツアー、九州での演奏、私の意見に反対の方はどうかおっしゃってください、不公平だと思われるのならば、多くの反対意見をこの場で浴びる覚悟で私にぶちまけて結構、血のようなものを身に浴びた彼女は既にそれらを済ませてしまったのですから、まずは発言と評定を受けて彼女と対等な位置につくべき」