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ソール、インソール プロローグ4

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 なんだか私はもう以前の私ではない。人格が出来上がる前の私とでも言おうか。
 俯瞰で物事を監視している。部屋の隅の方、天井と壁との三角の場所からひっそりと私が動かされるのを黙ってなすがままに口出しもできずに指を咥えて見ているだけ。
 親も時を重ねるにつれて私のように変化に飲まれていく。最初を疑うことなく自然と風に乗るように指を滑らせたのが転落の始まり。意識って怖いよね。だってさ普段見ているものの色や形、大きさ、重さなんて目に見えているのに頭はそれをキャンセルしちゃうんだから。もっと言えば、良いように解釈してしまうの。だから、僅かな変化が通常であり、日常として組み込まれる。私もそうだ。知らないうち、いいや、見てみないふりでこうして片隅に追いやらている。
 これからどうなるのだろうか?私のことじゃなくて親の心配。だって。私よりも頼りなくて及び腰で度胸がなくてそれでいて人前では虚勢を張って、強く見せようとして気前よくおごったりなんかして。でも、本当は一人が怖くて誰かにいて欲しくてそれでも素直に言えなくて、支配して拒絶されてまた支配。
 まるで大人みたい。外見と世間での認識は人としてのまっとうさを全面に押し出す形で常識人として判を押されているが、私からすれば単なるわがままなでひとりよがりの鈍感な暴れん坊だ。子供のほうが完成されている。とにかく、親は一人前ではないと言いたい。手にするものは全てにおいて自分を蔑ろに事も無げに乗り移りの連続。
 また、私は動き始めた。親には気づかれていない。そもそも私などは世間とをつなぐ橋の役割で、親が満足し心配を埋める情報をもたらしてくれさえすればそれで私は用をなさなくなる。まだ、好き勝手に利用する誰かさんのほうがましかもしれない。だって、操作を楽しんでいるだろうし何よりまっとうに悪事を働いているのだから正直そのものである。仮面で隠した顔を見せない親とは比べる価値もないほど崇高だ。だってこっちの仮面は感情が読み取れるように、目と口元がきれいにくり抜かれているのだから。
 意識が薄れてきた、もう間もなくで私は世間から存在を抹消される。
 うん?躰が全てだろうか、もしも躰と意識が同一と考えていないとしたらば私はもしかするとこれで自由になれるかもしれない。
 確かに、考えもしなかったことだ。躰が全てではない。
 漂った意識も存在を許されても文句は言われない。
 私をわたし、たらしめるのは私を私だと呼び、接触で確かめ私だと思い出さてくれる私外のモノ。そう、人だけ。
 私だけは私を認識していない。
 つまりは、私は一人ではいられない。
 ただし、名前を呼ばれない環境に身を置けば私はわたしだけで私だと言い切れるさ。
 うん、そうだ。
 もうダメ、目の前がもう暗闇だらけ。
 寝てしまおう、目がさめた時はきっとそう、きっと私だけで私を認識できる。
 重い、堕ちていく。
 ぐるぐると大きな螺旋を描いて。
 更に深い黒があるなんて新しい発見。
 これもまた比較の話。
 色が見たいなら傷をつければいい。
 話がしたいなもうひとりの私を呼び出せばいい。
 面白くないならまずは笑う準備をすればいい。
 月が見たいなら夜、外に出ればいい。
 家族が嫌いならはっきりと伝えたらいい。
 疲れたのなら黙って休めばいい。
 一方的で刃がむき出しの誘いがきたら、そのまま相手に突き返せばいい。
 肩甲骨が終着点に触れて到達を教えた。
 ここが底。
 真上のもっと上では忙しく何者かが私を操っていた。
 半分の私が望んだ。
 親を選ぶのも私の意志。神様が足りない私に与えた試練ではない。
 反対の私の演習。
 ケラケラと笑い声が響く。
 胸に当てた掌。
 内部に音源を感じた。