コンテナガレージ

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飛ぶための羽と存在の掌握4-5

「復讐ですか?」熊田が受け取ったコーヒーの缶を斜めに傾けてシェイク。

「恨んではいただろうな」

「彼女は軽傷ですよ。どうして恨むのでしょうか。車の修理代を払うのが嫌だったとか?」

「結婚式の資金が当座の資金に当てられたらしい」

「破談か」相田が呟き、そっとこちらを見たが待っていたかのように鉢合わせ、相田は目線を外した。

「種田がもし、結婚を前に式が取りやめになったとすれば、どう思うだろうか?」部長が果敢に聞いた。

「そもそも結婚に重点を置いて生きてはいません。式は見る限り、お披露目会のようなもので、当事者間の意思疎通が最良であれば、式を行わなくとも婚姻は成立します。絶対ではありません。彼女が式についての認識を改められたらどれだけ無駄でどれだけ無意味かを知れる。それを怠ったからこそ、調査をしていたと思われます。要は、最重要であった結婚式が果たされずに調査に移行した、と解釈します」

「お前らしいな」種田は"お前"を指摘なかった。言い過ぎた自分と相殺したのだ。

「恨んで、事故だと調べあげて、何をしようとしたんでしょうね。だってお金が返ってきても結婚相手は戻りませんよ」鈴木は座らずにゆらりと立って話している。

「証拠を掴んだから殺されたと思う」部長が言った。「彼女は事故を証明する何かを掴んだ」

「殺されたって確定しましたか?」鈴木が率直に尋ねる。

「自殺なのか?」部長が聞き返す。

「まだです。捜査情報は上に流れて行きました、我々は追い出されました」種田が補足した。

「そうか。状況をよく把握してないものでね、亡くなったとだけ聞かされたていた。彼女の死で不利益を被らずに済むのはM社しかいない」そこまで知っておいて肝心の死因を把握してないとは。言葉通り、死亡の事実を掴んでいれば部長の論理では破綻はない。ただし、死亡は新聞を開けば載ってる。

「つまり、触井園京子は殺され、そしてM社と繋がる不来回生が事故死、さらに理知衣音が襲われた。でも、何故理知衣音は警告だけで殺されなかったんだろうか」鈴木が首をひねった。手元のコーヒーにはまだ手を付けていない。

「車について調べるな、という警告だろう。彼女も旦那の死因を不審に思っていたんじゃないのか。熊田さんたち彼女に会ってますよね?」相田が正面の熊田に訊く。

「ああ。しかし、もう夫のことには触れてほしくない様子だった。お前が言うような心境だと我々警察の訪問は好都合で事故死を不審に思っていれば捜査を依頼するはずだ、しかし、彼女は一貫して事故を遠ざけた」

 鈴木が大きく開けた口で話し出そうとした刹那、部屋のドアがノックもなしに開き、常套なスーツに身を包んだ上層部の背の高い男が一行を会議室へ招集した。丁寧な口調は権力や部下を持った途端、罵倒に変わるだろう。飲食店やタクシーでの高圧的な要求が男の纏う気配に見て取れる、種田は一同の最後尾について会議室へと移動した。