続いて車が一台、離れた。「一緒に来ていだだけますか?」アイラは前方の光景を見やって言う。
「もしかして、警察のところへ、ですか?」
「気が進みません?」アイラは首を傾ける。灰色の目を彼に向けた。
「……外ですよ」
「フィールドワークに必要なのです、お願いします。施設デザインに関係するんです」
「わっ。そんなに見つめないで。いいですけど、一体何を聞きに行くのでしょうか」
「それは行ってのお楽しみ。さあ、行きますよ」
平原を道なりに歩くアイラは車に戻ろうとする警察一行に堂々と場違いな高い声で呼びかけた。
声を拾った種田が歩いてくる。
「何か用事?」
「忘れ物のガイドブックの現物を見たいの?」
「その人から聞いたのか」種田が背後の山遂に釘を刺す。「捜査の内容をあまり他言しないで下さい」
「この人を責めないで、私が聞きだしたのよ」
「ガイドブックはみせられない、それに厳密にはもうここにはない」平然と言い切る妹の口調は喧嘩をしているような錯覚、一人で育った押し込めた過去が今更になって再燃したみたい、彼女はこみ上げた懐かしさを閉じ込める。
「あなたなら内容を覚えているでしょう?」
「機密情報」
「いえないの?」
「ええ」
「この人が忘れ物のガイドブックを届けたのよね?」
「ええ」
「現物をもう一度手にしたら、何か思い出すかもしれない」
「何を?」
「忘れ主のことを」判断に迷う妹の肩を引き上げる仕草は昔の記憶と遜色なく重なり合った。アイラは、妹の選択は常に理に適う、感情を取り除いた機械的な感覚にゆだねられるのを思い出して、それを反対に利用してみた。妹は私の判断にも気がついているはずだが、それにもかかわらず誘いの乗ってくれるような想いが駆け引きを仕掛けた。
「わかっているとは思うけれど、あなたは見聞きした情報を他言してはならない。この取り決めを守れなければ、あなたであっても法の裁きを受ける」仕方ないといった表情、種田は眉と瞳の間を狭めて承諾を決めた。雪が止んでいる。顔をしかめるが、雪のせいではない。
「問題ないわ。ねえ、山遂さん」