コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

パート2-2

「君は眠らないのかい?」ひとつ間をおいた席から声がかかった。男性、髪が長く、ロッカーみたいにひげを生やしてる。年齢は二十代から三十代といったところ、服装はカジュアルで、長い足を窮屈そうに折りたたんで、空いた席のほうへ足を流すように座っていた。視線を感じていたのはこの人が原因だったのだと知る。また、発信源の特定に遅れた。

「ラップトップで何をしているのですか?」僕はきいた。

「左目から入った信号は右脳に検知される。右脳は運動をつかさどる領域、君は運動的な能力が人よりも優れていると感じたことはないだろうか?」

「取り込まれる信号が左に偏ったに過ぎず、取得可能な信号量は片目においても不変であると推定すれば、基本的な能力の変化は見られない」

「私の見込みに間違いはなかったようだ。君は僕と一緒に働く気はないか?」

「金銭を稼ぐことには興味があります。ただし、両親がそれを許可するでしょうか」僕には到底想像もつかない。

「君の才能は埋もれるべきではない」熱心な説得である。しかし、薄暗い機内だから声は小さい。しかも、乗客はほとんど外国人。海外の飛行機に乗っているので当然、言葉の意味を理解する者は少数だ。

「具体的な展望は?」僕は訊いた。

「君の生存そのものが商品だよ。まだ、自分の価値を君は過小評価しているようだね。視覚損失者への転用だけに留まらない。現代人が抱える物を見る能力の低下を根本から改善させる可能性を秘めているんだ」

さわり程度の解説である。まだまだ確信部には触れてこない。それがわかりやすさというものであり、反面、大まかな概念は単純で難読だ。実例を出し、説明、解説。それから他の事例も報告。そして、結論と課題、問題点を挙げたら、考証に値するのに。

「キャッシュカードです」カードが隣の座席に投げられた。「好きなように使ってください、不十分ならばいつでも口座へ希望の金額を振り込みます」

「保管場所は?好きなものを買ってもそれを使用する空間及び保管しておけるスペースを僕は持ち合わせていない。また、学校と自宅周辺が僕の行動範囲であり、遠方にふらりと出かけることは、この体ですから、禁じられている。迷惑はかけたくはない、優しさではなくて、精神の疲弊は僕にまで降りかかってくる恐れを考慮したまでのことです。大切には思っていない。正直な感想です。寄り添って生きるのは、つまり一人の自分を恐れているからで、それは一人で震える自分を守り互い、避けたい行動であると、僕は思います。どちらが正直でオープンなマインドで、生に従順であるかはお分かりでしょう。そういった僕の思想まであなたは調べているはずですし、隣のチケットを取得するのは苦労したでしょうね。本来その席は空いているはずですから」僕の家族が乗るはずだったが、事情で搭乗を諦めた。急遽空いた席を確保した幸運も働いた。あるいは、獲得できなくとも倍額の料金を支払い、搭乗にこぎつけたのかもしれない。