コンテナガレージ

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パート2-3

 男は、乗務員を呼び、飲み物を注文した。僕も面倒な視線に応えて同じものを告げる。「ご自宅の裏に二階建ての家があります。そちらの庭、芝生の下に地下へ通じるハッチから裏の家に出入りができるよう、準備は整えてあります」今回が本格的な訪問で、一度1カ月前に家族で物件の下見に行っていたのだ。記憶に裏手の白い建物がよみがえる。「通信環境はもちろんのこと、ネットを介した商品の注文に関しては、宅配ボックスが玄関の脇に設置してあります、カードをかざすか暗証番号、網膜スキャンが開錠のキーになり、なかの商品が取り出せますので、お好きなものを、比較的大きな商品も入るように、大容量のダストシュートを思い浮かべてもらえれば、わかりやすいでしょうか」

「そこで私を観測するのですね?」

「ええ、カメラの設置は承諾していただかないと。ただですね、一部屋はあなたのプライバシーが尊重され、監視をつけておりません。1時間という限定的な時間設定ではありますが」両親は僕と常に行動を共にしよう、時間を共有するべく仕事をやりくりしている。二人同時に家を離れはしない。

「裏の家には別の住人を住まわせておきます。もちろん、あなたが訪問されたときは席をはずします。隣の家ならば、たとえそこから出てきたとしても、またあらかじめ両親との面識が住人にあるとしたら、不信感を抱かせずに済みます」

「わかりました、利用させてもらいます」

 機内食はとっくに運ばれ、消灯の時間。会話は、僕の了承を最後に終話に落ち着く。男性は毛布に包み、窓を向いて動かなくなった。僕はといえば、両親が話しかける朝方の数時間後まで目を閉じて眠った振りで時間を過ごした。二時間ほど眠り、残りは右側の構築に忙しく頭を働かせていた。その後、機体を降りて乗降口を通り抜ける。入国手続きを終え、荷物を待つ間に2つ隣りの席に座った男性が僕とぶつかる。故意にぶつかったらしい、男性の口元は一文字から左右が引きあがった、僕にしか見えない角度で。父親と僕に男性は丁寧に謝る、異国人は東洋の人間の習慣を肌で感じたことだろう。離れて観測すれば、実に不思議な礼儀という慣わしである。根幹は相手への非礼を詫びることにあるのに。ポケットに感触、ふくらみを感じる。僕はお尻のポケットを、母が小走りでトイレから戻る隙に探った。暗証番号が書かれた紙だ、なぜ機内でカードと一緒に渡さなかったのだろうか。