間髪いれずに回答。「してない」
「……倉庫で怪しい会話をしてたじゃないですか、あ、あれはどう説明するんです」小川は長身の館山に隠れて顔を脇から覗かせて、午後に見たやりとりを指摘する。
「僕の口からはなんとも、その件に関しては話せない。だけど、二人に面接で言った事項は破ってはいない、ということは断言するよ」
「蘭さん、答えてください」小川は涙声で言う。女性はところ構わず涙を流すか、僕はどうだろうか。
「応えなくていいよ、国見さん」
「店長!やっぱりそうなんですね?」
「だから、違うよ。思い違いだ」
「なら、はっきり訂正なり、告白なりを言葉で示してもらわない、私にだって、その、なんていうか、気持ちの整理とか、あるんです」
「ごめんなさい。今日はちょっと話せる気分じゃないの」レジの国見が良く通る声で返答。無言、沈黙。
「……店長、蘭さん送って帰るから、いつもの残業を休むんだから、それってつまりは、そういうことですよね?」
「誤解だ」
「なにがですか!」
「もうやめなって」
「先輩だって、冷静な振りして、内心は煮えくり返って、ぐつぐつ溶岩みたいに真っ赤なくせに」
「国見さんは、今日は話せないと言っている。それは、明日やあさってなら話せるということだろう?」
「……おつかれさまでした」小川が力なく別れの挨拶。
「はあ、もうっ、めんどくさい」館山は小川に遅れてロッカーに消えた。