コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

抑え方と取られ方1-5

「何も無い所から得られた利益に興味はない。どうかお引き取りを、ドアはあなたの左手、ノブを捻って、引きあけると外に出られます」店主は右手を開いて方向を指す。「どうぞ、お帰りを」

「はあ。頑固ってのは、私がもっとも苦手な人種。お嬢様があなたの店を嫌いと口にした、数時間後に店はすっかり姿を変えている。言っている意味がわかりますか、店長さん?」顔を突き出した口調は、人を小バカにし、いやらしく、回りくどく、ねっとりしている。この人物、またはお嬢様と形容された雇い主とは法外な力を持つ団体のことか、それとも表向きの搾取が大手を振って歩く大企業だろうか。

「日本語は一応、話せますので」本心を聞き出す。

「……おい、おい、お前。おちょくってんのか?」低音。首が鶏みたいに前後にふらふら。交渉役にこの人物が選ばれたのか、はたまたこの人物しか適当な人材がいないのか、どちらにせよ一度で交渉を成立、いいやこれは一方的な同意の強制、を認めさせる意気込みが信じられない。

「事実を述べています」

 スルーツが倒れた、足の裏で蹴り飛ばされたのだ。

「素直に米を炊いて、料理を作れ!」熱量が上がった。万が一のため、一瞬左右の厨房の幅と足元を確認する。

「要求には応じられません。どうぞお帰りください。何度来られても、私はあなたの要求を呑むことはない。また、あなたが店内の備品を破壊するのであれば、あなたの行動は矛盾します。店が破壊されては、料理にまで手が回りませんからね。良く考えて、出直すことをお勧めします。ただし、私は対価を伴わない米で調理をする気はまったくありませんので」

 彼は唇をかむ。眉間に皺がよって、しかし顔の筋肉が弛緩した。ねちっこい微笑がのぞく。「冗談ですよ。芝居です、芝居。椅子は大変申し訳ありませんでした、はいこれはもう今すぐに私が直します」彼は椅子を元の位置に戻して、にんまりと口元に皺を作る。「いやあ、これはお嬢様が見込んだ人であるはずですよ、すばらしい、受け答え。店主はやはり毅然とそして聡明でなくてはならない。私も惚れてしまいそうです」言葉が重複しているが、あえて指摘はしなかった。二度目の確信はおそらく店の崩壊を招きかねないだろう。店主は身を引くことも三割ほど考えに入れつつ、男の動向を無言で観察した。

 ボンと体内に響く振動。

 ボイラーに火がついて、お湯が出る合図だ。