コンテナガレージ

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抑え方と取られ方1-4

 厨房に入って間もなく、店のドアが開いた。見知らぬ人物は堂々と店内に踏み、ホール内をじっくり観察。名前を覚えない店主であるが、人の顔は割合覚えている。相手との間柄で、その関係性を把握している。

「こちらの店で、ライスの注文を断っている。そう、風の噂でみみにしました。これは事実でしょうか?」膝を隠すロングコート、紺色に、皮の手袋、飾り用なのかマフラーを首から提げる男性は、突然の訪問に店主が受け入れる時間をまったく考慮してない風である。

「提供を一時的に中止しているのです。断りとはニュアンスが違います」

「失礼、あなたが店長さん?」

「はい」

「間違いなく?」

「ええ」

「もう一度お尋ねします?あなたが店長さん?」

「はい、これ以上はお答えしません」

「疑っているのではありません。あまりにも想像とかけ離れていたものですし、貴重なお米を譲渡し、差し上げるのです」

「結構です、どうかお引取りを」店主は、あっさりと退出を促した。

「施しがお気に触りましたか?提供するのはあくまで、お嬢様のためです。ご説明いたしますと、こちらの近くのアパレルの店舗にお勤めの、私が遣えるT財閥のご令嬢は、ここの料理をいたく気に入っております。ですから、あなたにはどうぞ惜しみなくライスの提供を再開して下さらねばなりません。ご理解いただけましたか?」砂糖をまぶしたような帽子の雪が床に落ちる。畏まった口調に反して、店に入る前に雪を落とす礼儀を彼はないがしろにして、こちらに頼み事をしている。古めかしさをわざと多用した口調は、必然的に学んだ習得の痕。言葉と行動にはまだ乖離が生じている。彼自身、その違和感を、礼儀を極めたという誤解に解釈しているんだろう、店主は哀れみすら感じた。

「お客はあなたの雇い主のほかにも大勢います。一人の要望に応えるつもりはありません」店主は腕を組んだ。

「交渉事は難航するのが常。いいでしょう、お米の提供に、前払いの報酬をお渡しします。ライスの提供が確認された後に、前払いと同額の代金をお受け取りください」文句は無いだろう、そういった感情を表に彼は眉を引き上げて、言った。