「八分」
「九分」
「八分」
「わかりました。八分で」
店主は、ホールの壁掛け時計で時間を確認した。
「機密情報なのであまり口外はしたくないのですが、他の企業が来月早々にも栄養食品の販売を控えているらしいのです。私どもが手に入れた、あなたがもたらした奇抜な栄養素を含んだ食品だそうです」
「では、その企業の方が、私に贈り物を届けたのでしょう」店主は腕を組んで、応対する。失礼な態度ととられても、彼女たちの方がぶしつけ。比べるならば、こちらの横柄さはむしろ彼女たちには許容範囲だろう。
「いいえ、内情を知るものからは、そのような報告は受けていない、との情報です」
「スパイですか、ライバル企業に?」店主は片目を閉じてきく。
「いつも行っているわけではありません。今回だけの特殊な事例、そう聞いています」あくまでの彼女は研究者、彼女のほかに情報収集の担当が存在する、と発言から読み取れる。「本題に入りたいと思います」
「とっくに本題ですよ、私は」
「あなたが所有する残りのチョコを一つ十億円で買い取ります。三つで三十億。一生分の預貯金としては、使いきれないほどの金額かと、存じます」
「お金には興味がないと、先日お話しました。お忘れですか?」あっさり、提示された金額には目もくれず、また驚くことなく、店主は会話を引き伸ばす。
「では、承諾する金額をおっしゃってもらえると私どもは助かります」
「どうしてあなた自らが足を運ぶのでしょうか?交渉ならば、専門の人間があなたの会社に在籍しているのでは?」
「研究職は指示された目的のためにしか、企業で生き抜くすべはありません。ですが、単独でしかも、有用性と将来性を兼ね備えた商品が私のチームで開発されたのなら、私は今後、自由に研究の場を与えられる」