コンテナガレージ

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静謐なダークホース 4-4

「あのチョコ、形、外見は綺麗でした。ああ、わかった、あの手紙か。メッセージがなければ、かなりまともで、食べられたかもしれません」

「それはいえるかも」

「嘘はいけません」

「手には取ったかもしれない」

「譲歩しましたね」

 拭いた皿をカウンターの定位置へ。残された皿を上に重ねて、循環。使われない皿を発生させない配慮だ。腰をぐっと、押し付けるように、洗い場の小川はうめき声を上げて、仕事の一段落を主張した。

「小川さん、休憩」店主が呼びかける。

「あーっつ、ちょうどですね。ふう、今日はいつもよりお客さんの入り多かったように思いますけど、ライスがなくなって、パンにしたから、お客さんの食べるスピードは尋常じゃなく、速くなってません?」額の汗を拭う。コックコートが濡れないよう巻いたゴム製の白い前掛けをはずして、小川がきいた。

 米の高騰に始まるライスメニューの排斥に伴い、お客の要望、ハンバーグだけでは物足りない、という声をパンを添えることによって、その要望に答えていたのだ。当初、ディナー客が向けたパンの提供を考えていたのであるが、アレルギーの賑わいから扱いを取りやめていた。しかし、大豆の台頭やとうもろこし粉などの出現が、大量摂取による症状の緩和を促し、小麦の使用を再開。まずはランチでの試作に乗り出した、という現状である。

「言われてみると、あっているかもしれない」

「ほらぁ、たまに私の発言もまんざら当たらずとも遠からずですよ」小川は得意げに胸を張る。しかし、店主が無言で見つめたので、すぐさま姿勢は標準のうつむき加減に直る。

「安佐、早く休憩に入って」

「急かさなくても、タイムカードくらい切りますって」

 ぶつぶつ文句を言いながら、小川が店を出た。店内は、店主と館山の二人。ただ、その時間もほんのわずか数分であった。

 比済ちあみが二人の男を引き連れて、店を訪問したのである。仕込みに取りかかる手が止まってしまう状況を、店主は即座にシミュレート。端的な質問を相手に要求、それへ短い受け答えで会話のロスは三十パーセントほどカットが予測されるか、店主は一筋縄では退出に応じてはくれない気概を入店の三名から感じ取る。

「あなたの言い分は十分に、心得えているつもりです。十分の時間をいただけませんでしょうか?」自信に満ちた声量。比済が言う。後ろ付いて入店する二人は、そろいのコートを着ているように黒の衣装。しかし、中には白衣を着込んでいる、彼女の同僚だろうか。