「何か紙の契約書と代わりがあるのですか?」店主は、顔を傾けて二人に聞いた。代表して弁護士が応える。
「いいえ、まったく同等に扱われます。しいて、デメリットをあげると、そうですね、改ざんの恐れと契約の捺印を味わえないこと、ぐらいなものでして、紛失の恐れもありません」
「では、その契約書でお願いします」
比済は顎を引く。テーブルの改変された文書部分を書き直し、数分の時間を待たされる。店主はまた一本タバコに火をつけた。
「……こちら、ご確認を」ラップトップを画面が店主側に、見えるように回転。引き寄せて弁護士が画面を注視、税理士も眺める。今度は改変箇所のみであるから、確認に要する時間はタバコが灰に消えるまでに終わってくれた。
「よろしい。いいでしょう、ご確認を」店主は確認を進められるが、キャンセル。首をゆっくりと振った。二人を信頼している、それにもし仮にお金が振り込まれない、あるいは使用制限が契約と異なっていても、そもそも僕のお金ではない。だから、損失とは言わないだろう。
「ふう」彼女はあからさまに息を吐いた。今度は安堵の呼吸だろう。「まったく、面倒なことをしてくれたわ。これで研究が一日遅れをとった」
「申し訳ないのですが、次の約束がありますので」税理士が腰を上げる。
店主は承諾。「どうぞ、急な申し出は私のほうですから」
「すいません、それでは失礼をします」
「私も、よろしいですかな」
「ええ」
弁護士は立ち上がって一見、重みのあるコートを軽々と羽織った。かばんに書類を詰め込んで、言った。「あの、どちらまでいかれますか?」
「私ですか、はい、西区です」
「車でこられました?ここまで」
「いいえ、早い時間だったもので、自宅から直接地下鉄で来ました。時間が正確ですから」税理士は笑う。
「それならば、私の車に乗っていかれませんか、私は正午前に着けば、問題ないので約束の場所までお送りします」
「よろしいのですか?」
「契約がまとまった。うれしさは共有すべきです」