コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

静謐なダークホース 6-4

「はあ、それでは、同乗させていただきます」半ば強制的に弁護士が税理士を車に乗せる許可、いいや同意の返答を引き出した。会話は弁護士が上手。

「私もお暇します」二人に遅れて、荷物をまとめると比済は引いた椅子をそのままに店を出た。知り合いの館山にも挨拶はなかった。

 憶測が飛び交う厨房の二人の質問に、答えをあいまいに濁した店主である。各自にまとまった意見を確定させる狙い。そのほうが、意見の食い違いがもたらす質問が少ないため、返答がたやすく行えるというもの。ランチの片付けに目途がつき、一人目が休憩に入る間際の数分を契約内容の情報公開の場にあてた。

 主に、資金の流用への質問が集中したと思う。どういった経緯で、使い道を決めるのか、店の外観や内装の施設修復に資金が適用できるのか、などの質問にまぎれて、個人的な店主の報酬に資金利用をどうして訴えなかったのだろう、これがもっとも圧力が高まり、強かっただろう。はたまた、利用期限については、店主の生存期間に依存し、店に立つことがままならなくなれば、契約は自動的に解消される。これには、別の形に契約の形態を変えるべきだ、との意見が三人とも共通していた。しかし、契約はあくまでも店主個人の取り決めである。従業員は部外者。ただし、契約の項目に従業員に対する優遇措置に、寿命に反する要因がもたらす営業の制約が課せられた場合は、店の営業停止期間も従業員の報酬は滞りなく支払う、という要項を設けた。これは、比済ちあみの所属の企業が向こう数十年の経営の傾きを無視した契約事項である。大企業だからと言えども、絶対はないのである。

 館山と国見が休憩を取って、店内は小川と店主の二人っきり。時刻は夕方の足を踏み出したころである。

「最初は、食べるように思うんですよ、あの人が作る商品」すべての栄養素が盛り込まれた比済が手がけ、今後市場に出回る商品を、小川は指して言っている。「けど、もしかすると、飽きちゃうかもしれません」

「そうだね」店主は相槌を打つ。

「聞いてます?店長」

「聞いてるから、返事をした」

「聞き上手なのに、話下手ですよね」

「そうかな」店主は首をひねる。小川は店主と背中合わせ、調理台に載る揚げ餃子のタネを厚めに、形成した皮へはみ出さないようにスプーンで軽く押し付け引き伸ばして、周りを小麦粉を水で溶いた白濁の液体を指に浸し、接着剤の役割で皮の両側を留める作業にひたすら打ち込む。先読みの必要がないため、彼女の口が行き場を探しているのだろう、と店主は有り余る体力の矛先を感じ取った。