「そうだとしても、私、番号は教えてない」
「本当に?」
「なによ」
「いいえ、言いたくないのなら。秘密は堅守ですから」
「あんたの軽い口がばら撒いた可能性のほうがよっぽど高い」
「蘭さんの番号をそらで言えるほど、賢くありません」
「ああーあ。もう、やめよう。くらくらしてきた」
「大丈夫ですか」
「……着替えてくる」
「お大事に」
小川は店主を見上げた。
「なに?」
「いいえ、その、店長の感想を聞きたいなあと、思いまして」
「業者の反省じゃないかな」
「反省ですか?」小川が鸚鵡返し。
「うん。ほら、新商品の提案や新規顧客の獲得に、業者手持ちの商品をまずは僕ら店側に食べてもらう、味を確かめてもらうために、商品を無料で提供する。試してもらい納得すれば、価格の交渉に移って、さらに折り合うと契約が結ばれる。これも、改めて、という意味を込めたんだろう」
「店に直接送らなかった理由は?」
「より深く受け取る商品を考えてほしいから」
「……たんなる深読みのような気もするけれどなぁ」小川はさらに首をかしげる。「ではですよ、蘭さんの番号はどこで、誰に聞いたんでしょうか?」
「緊急の連絡先に国見さんの番号を指定しておいたんだ。僕につながらなければ、最後に彼女にかかる」
「先輩、怒るかもしれませんよ」
「どうして?登録した番号に出る出ないの権利は受け手側に委ねられる。非通知なら出なければいい、そういった設定は可能でしょう」
「ですけど、気持ち悪いですよ。人に番号を知られてるなんて」
「本日のランチは何ですか?」通路を歩きながらホール用の黒いサロンを腰に巻いて国見が店主にきいた。表情は晴れやか、軽い運動が酸素交換の役割。