コンテナガレージ

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踏襲1-5

 波風が立たないのは気分が良いだろうが、別角度から観察すると現状維持で変化がないさまを表しているとも言えた。

 隠してきた私がそこで鳴き声をあげた。

 覆い隠された情動は扇動に耐えかねて本来の姿を取り戻そうと反力を退ける。

 抗うな。任せればいいんだ。

 言い聞かせるというよりかは元々の私に戻るために脱力を試みたまで。

 とどめを刺して糸を切った、風船は宙を舞い、緩やかに高度を上げていく。

 どんどん小さく影がなくなっていった。持っていたら、ずっと糸を手にしていたら真っ赤な楕円は私の近くにいたのに。でも、離れて見えなくなると、より身近に感じたのはなぜだろうか。もしかするともともと持っていなかったのかもしれないし、風船そのものが無かっただけかもしれない。だけれども、風船の気持ちで、風船の視点で世界を見られたのはなんでだろうか。私は風船なのだろうか?

 砂糖の甘さではない、それに似た甘味料のお陰でカロリーオフでも過去の爽快さと甘みを引き出す飲料水を私は傾けた。ペットボトルは表面に汗を掻いてる。

 海鳥の鳴き声が届く。彼らの声は歌っているように聞こえた。私はなんのために歌いたいと思うのだろう?考えもしなかった疑問が浮かんできた。堤防から伸びた足がブラブラと前後に振り子。

 いくら考えても答えなんて出ないだろう。あの子だって過去を振り返り、自分に似通った誰かの例を参考にしたわけでは絶対にないのだから、私は思うとおり実行すれば、やっと私になれる、成れてしまうんだ。

 喉をシュワシュワといわせて炭酸を飲み干すと、寂れた最寄り駅に引き返して再び上りの電車に飛び乗った。