コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

摩擦係数と荷重2-3

f:id:container39:20200509131858j:plain

 

 「事件についてなのですが」

 「それはあなた方が考える事ではありませんか?警察に協力するのが市民の義務だなんて俗っぽいことは言わないでくださいよ」

 「考えてはいますが、なにぶん頭が悪いので。どうも分からないことが多くて……」

 「なにがわからないのでしょう?」熊田が話し切らないうちに美弥都が話す。「人はいつもわからないと言います。しかし、その中でどれくらいの人間が何についてわからないのかすら把握してはいません。事実だけを最初から見つめ直せば、曇った視界がいくらかは晴れるでしょう」

 「抽象的」

 「そうですね。ですが、すべてをこと細かく享受する義理も借りも私にはありません」目を伏せた美弥都の顔は仏像に似ていた。種田は残ったコーヒーを飲み干す。ガシャリとソーサーが音を立てる。

 ドアが開くと鈴木が顔を覗かせた。こちらを見る3人にひるみながらも、種田の隣に腰を下ろした。

 「また刑事さんですか」

 「またってお前、事件の後もここへ来てたのか?」鈴木に襲いかかる連続の悲劇。

 「いや、その、えっと。はい」熊田と美弥都を交互に見やって力なく認めた。

 「被害者の母親からは話は聞けそうか?」新しい煙草を吸い始める熊田。どうやら怒ってはいないらしい、鈴木はほっと胸をなで下ろす。

 「難しいようで落ち着くまでまだ時間は掛かりそうです」

 「そうか」

 「そちらは、どうでした?やはり、一件目との関連はあるのでしょうか?」鈴木は二件目の事件の担当である。

 「あるらしいぐらいではっきりと、ないとは言えない。現状で明確な事実と言えば、このぐらいだ」間に種田を挟んでの会話から、鈴木は頭を一つ乗り出す形で話していたが、正面からの威圧的な視線を感じて、そっと目を向けてみると美弥都がじっと見つめている。

 「あの、何か……」衝撃の告白または、思いもかけない友好的な客と店員からの進展を多少は期待したがあっさりと払拭させられる。

 「まだ、ご注文を伺っていなかったものですから」

 「ああ、じゃあ、コーヒーを。いや、アイスコーヒーはありますか?」

 「ええ、あります」

 「では、それを」

 「はい」無表情なのに鈴木にはいつも美弥都が笑っているように映るのは彼が好意を抱いているからだろうか。やはり、受け取る者による認識の違いは存在するのだ。