コンテナガレージ

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踏襲1-4

大学は可もなく不可もなくの生活を、入学から一年過ごしていた。慣れ始めた夏ごろ、知り合いの知り合い、顔を知っている程度の人が急に大学を辞めてしまったのだ。将来を見据えた選択ではないなと、思っていた私はあえて聞いてみることにした。すると彼女は平然と言ってのけた。ここにいても、何も身にはならない。就職を有利に進めるための資格は得られるだろうけど、その道だけが全てではない。わたしでいられる場所で生きていたと、そう言っていた。

 無謀、突発的、集中力の無さ、海外に行くに決まっている、世界を旅する、などの周囲の意見に私も同感で間違った選択だと思っていた。しかし、それから二ヶ月後、ふらりと立ち寄ったこぢんまりとしたコーヒーショップで彼女に出会った。彼女はその店で働いていた。ぱっと見て、ああ生活に困ってその場をつなぐためにアルバイトに勤しんでいるのだと上から目線で現在の状況を尋ねた。すると彼女は、ここは彼女の店で先週オープンしたばかりなのだそうだ。店の準備は人の手を借りたとはいえ、二十そこそこの同年代が両の足で堂々と生きていたのだ。

 衝撃だった。見下した自分が恥ずかしくてならず、愛想笑いで交わすことなんてできやしなかった。購入したコーヒーは非の打ち所がないくらいに美味しかった。泣いている姿が店から離れる私に襲ってきて、通りすがりの人に注目の的。なみだが引っ込んでいかないのだ。その日、講義は自主的に休んだ。親しくもない友人からのメールには、嘘をついて返信した。真実も告げたくはなかったし嘘もつきたくはなかったけれど、本心はもっと言いたくなかったので嘘で我慢をした。

 電車に乗ってカラリと晴れた午後に遠回りになる海沿いの防波堤に腰を下ろして、キツい炭酸飲料でのどを潤しつつ、ぼんやりと海面を眺めて、わたしをごまかした。