コンテナガレージ

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踏襲2-4

 学校までにこの半年を振り返えってもまだ、入学の真意には辿り着けない。なんでこんな場所に通い始めたんだろうかとも思い始めていたが、手遅れで他校へ編入する目的も気力も親の説得も私には到底叶わないので、とぼとぼと一歩でも一限目の授業に間に合わせようとする。

 前を歩く人の足元と隙間の床を見つつ、目をつぶってでも歩けそうなルート。ただ、考え事にはもってこいの時間である。褐色のキラーを手にしてから半年が過ぎて、まだ前任者があのギターを手放す意味を見いだせずいた。とは言っても、そこまで深くは考えていなくて、どっぷりとただギターにのめり込んでいた私である。

 月刊の教則本を買い、コードを覚えて押さえるボジションをひたすら反復、攣りそうになった指は最初の数週間で現在は無理なく指の間が広がる感じ。なんだか、ザラザラの紙が懐かしかった。

 指の股に水かきをつけたら早く泳げそうな気がする。コードを見なくても押さえられるまでに成長。体の一部とまでいかないけれど、徐々に動きは思い描く滑らかさに近づきつつある。息を吸い込んで吐くように指の連動が途切れないように次の音を奏でられたらと、これが現在の目標で、作り手の存在する耳にした曲を習っている最中であった。

 これからはもう一段階が必要となる、そう確信してる。いつからか目標は曲作りと披露、形体はどんなふうでも良いから商業としての音楽を作りたいと考えるようなっていた。大学という異場所から早く立ち去りたかったのかもしれない。

 街の中心地、S駅の地下深くに潜って、さらにエスカレーターで降りていく。まどろみの中で泳ぐ感覚で息継ぎの場所を探すように人の波をかき分けて地下鉄の改札を前にして脇へ避けた。

 考え事をしている時はなんともないのに、集中を解放すると息苦しさがやって来る。心身的で病的なストレスなんだろうか。病院に病名を尋ねたりはしない。人気のない通路を歩く時は平静でいられるのだから、やはり人との距離感が狭まると発動するのだろう。

 気を取り直して改札を通過、天井が付いたホームにアナウンスと到着を知らせる甲高い効果音。車両の最後尾に乗って、車両をずんずんと中程に進む。案の定、席はびっちり埋まっている。車両の継ぎ目の三人掛けの席前で吊革につかまる。ここが一番落ち着くのだ。車両が動き出して、窓の向こうの闇に顔が反射。袖から伸びた手首が一回り大きくなったように思う。これぐらいの影響は許容範囲内だ。お菓子の食べ過ぎで脇腹に贅肉がつくよりは手を叩いて歓迎するよ。そうやって慰め。