コンテナガレージ

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独自追求1-6

 拡声器が轟いた。

 「これから整理券を配布します。会場への入場には安全を考慮して制限させていただきますので予めご容赦下さい。また、本券は一枚一名の入場です」発券がアナウンスされると、どこに隠れていたのか、人が溢れかえってくるではないか。

 ぼんやりと会場を見ていた私は途端に避けてきた人混みに飲まれてしまう。

 流れに逆らっても、動きは整理券の配布に寄せられていく。朝のラッシュにみたいに流れに任せたほうが、案外抜けられるかもと思いついてそれからはもうなすがままだ。整理券の列は、係員の呼びかけに柔軟に従い、ステージ前の空間に波を打って蛇腹のように折り返し折り返し出店の邪魔にならないように連なっていく。押し返しの列の間には腰までの三角コーンが置かれて、ここから出るには整理券をもらうために前に進むしか方法はないようだと悟った。

 前の人の踵を二回踏んで、私は三回、踵を踏まれた。百五十センチ程度の私が見上げても髪の毛や肩を舐めるようにしか空を見させてはくれない。これから下っていく時刻、携帯で時間を確認したかったが肘を曲げると後ろにあたってしまうために諦めた。

 十分ぐらい、息を殺して死んだように呼吸を切り、活動を抑制した。そのため、近距離で聞こえる会話や雑音が排除されて生き抜くだけの機能に特化した。そう、特化。私はこれまで付け加えることばかりを考えていたが、もしかすると余分なものを排除したほうが伝わるのではないのか。

 しかしだ、シンプル過ぎやしないか。いいや、ただのシンプルとそぎ落とした単体は存在の意義がまるで異なるのだ。もともと丸かったのではない、四角から丸に近づけていった。意識を通わせて考えている時間も取り組んだ時間も気力も別物。時間を掛けたから良い物が出来上がるとは思ってはないけれど、通過した道で衣服の乱れや劣化は風合いとして曲に残る。何気なく聞き流したうちに現れてくる作用に敏感に反応するんだ。

 一つの結論に達した時に、私にも整理券が配られた。水色のハッピはなんだか旅館の番頭にも見えた。