コンテナガレージ

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再現と熟成1-4

「お前の一存で俺を省く権利はない」
「そうでしょうか?」片目で店員は問い返す。
「なに?」釣り上がる男の両目が血走る。「本当に痛い目をみるか」
「あまり挑発しては逆効果ですよ」レジの奥からか細い声で女性店員がアドバイスを送る。しかし、短髪の店員は聞き流す素振りで風に揺れる稲穂のごとくゆらりゆらりといなすように相手からの暴言や他所からのアドバイスを受け流しているようだった。並走トラックに吸い込まれるように、権力を握る者には求心力を誇示して人を集める力が備わっているが、店員がコンテンストの主催者側であるのならば、彼から人を従える振る舞いがないのは不思議であった。本来ならば言うことを聞く人間の一人や二人を手足のように顎で使っているのに。それに出場者には辞退を願い出ている。黙っていれば、コンテスト不参加の通知で事足りた。
 車体から剥離しかけた空気の流れを車体に留めるために、私はキーボードのスイッチを入れてデタラメに鍵盤を叩いた。規則的なリズムが勝手に鳴り続けて教会のオルガンを思わせる音色で鍵盤から音が発動。流れかけた空気の塊は、突然現れた私の音色に吸い寄せられて剥離を免れた。ただ、注意点として今度は私がその場の主役におどりでてしまう。
「おい、音を止めろ。大事な話をしているんだ」盛り上がった男の筋肉がさらに感情の起伏に合わせて上下動。
「順番が回ってこないので教えてあげたんです。次は私の番なのでさっさと用を済ませてほしい。あと十分で電車に乗らならなくっちゃ。乗り過ごしたら次まで二十分も無駄な時間を過ごすことになる」
「そうだ、お前の順番ではなくっておれの番だ!よくわかっているじゃないか。だったそこで大人しく突っ立っていろよ」怒号は抑圧を幼い頃に加えられて、反動で成長に従って恐怖を殺すために、消えないのに消そうとして、苦しいのに苦しくないぞと見えないようにして、恐ろしいだけなのに、口を抑えてはいられないのだろう。つまり、考えるほどにドツボにはまっていく仕組み。それ自体の存在を無効と決めつけて考えないようにすればいいだけのことなのに、向き合うことが正義だと信じているんだ。
「私、コンテストに出るんだ。あなた達の言うことが本当なら選ばれたんだ」幼稚園児がませた口調で得意げに言うように私はコンテンストの出場通知を発表する。
「……あいつを選んだのか、認めたのか?」男は私に指をさしならが店員に聞いた。