コンテナガレージ

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再現と熟成1-3

 「……お客さん、怒らない、それに私に殴りかからないと約束できますか?それならば、理由を話します」

 「分かった。何を怯えてる?私が人を傷つけるような人間に見えるのかい?」不敵な笑みで男がオーバーなリアクション。感情を押し殺している証拠。

 「では、遠慮なく」店員は顎を引いて念を押す。「今の言葉を忘れないでくださいね」

 「くどい。いいから早く教えてくれ。こっちだって色々と準備で忙しくなるのだから」

 「……わたしは選考委員を兼ねていて、あなたはコンテストに出る資格が無いと判断したために応募を止めたんですよ」上げられた店員の顔は清々しく、一点の曇もなく透明であった。

 「……具体的に俺の何がどういけないのか、言ってもらおうか」左の拳がレジ台に打ち付けられる、甲のあたりは太い毛で覆われていた。音に反応してもう一人の店員が様子を見に奥から出てきた。しかし、顔を覗かせるとさっと出てきたドアに隠れた。

 「暴力は駄目ですよ」半眼で短髪の店員は諭すように言う。

 「言えよ。はっきりと俺がでかくてギターなんか持つ資格が無いってそう言いたんだろう。ああっ」

 「まだ何も言っていませんよ」そこで店員は緊迫した状況にもかかわらずあからさまにため息をついた。

 「ほおら、対応に困っているじゃないか。なんだこの店は人を外見で判断するんだぁな」周囲に伝播させるために男の視線が放射状の拡散。そのうちの一線が私に届いて、アピール。手近の殴れそうなものといったら、商品のギターが最適であったが、財布の残金を思い出して男に振り下ろすのは控えた。

 「コンテストには審査基準を通過した人でないと出場できない決まりになっています。申し訳ありませんが、その基準をお教えすることは規則で禁じられていますので、私がお伝えできるのはここまでなのです。どうか、ご理解ください」地下鉄で聞いたアナウンスに似ていた。かしこまればかしこまるほどに丁寧さが削がれていくような。