コンテナガレージ

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再現と熟成3-2

 無事に駅を降り駅前通りを南下する。地下通路は信号がないけれど、圧迫感の天井は窮屈でどうにも居心地が悪い。それに雨も降っていないし、人も少ないときたら地上を歩くに限る。日傘をさしたご婦人とすれ違う。三ブロックを進み、大通りを右折する。目印は車用の看板のみ。私はよく道に迷う。勘に頼った結果、選択が成功した試しはない。なので、標識それも大型の標識に頼る。地図をみてもどちらが北で南かすら理解できないのだ。そもそもどの視点で北と言っているのか、説明をしてもらいたい。道を知っているからと言って偉くもなんともない。ただ、人よりもその場所に通う経験を積んでいただけのこと。

 隣接、近隣とビルに比べて低層の建物。放送局に寄り添うホール。植樹された木々が申し訳程度に緑を咲かせて自然をアピール。列の姿で到着場所があちらから手を振っていた。楽器が等間隔で持ち物に含まれていて、白い紙に印刷されたコンテスト出場者受付の黒字。ベニヤ板がパネルを補強。重りは、カラフルな緑で見慣れない色合いと姿形であった。清潔感のない、まな板みたいな色合いである。

 列に並んだ。私の番、氏名を伝え、名前の横に丸が付けられる。番号札が手渡された。案内の人物が列と並走して入り口までの誘導。直接ホールに入らずに、裏の控え室に行列は案内された。皮の匂い、なにがロックなんだろと説明不足が言葉になっているのだろうか。暑いのにご苦労なことである。

 二十畳ほど部屋の真ん中にどんと長机、それを取り囲むように背もたれの固い椅子。座って顔を上げると迎えの人物のご対面で何度が会釈をした。通常ならば無視をして、そもそも顔を合わせないように先回りで窓から外を眺めているが、ここには窓がなくて仕方なくの応対だった。それでも空気は冷たくてなんだが冷蔵室の野菜みたい。これから調理されるのを待つ心情は特異な体験だ。

 入口付近、互いの耳元で囁くスーツの二人。さすがに上着はノーネクタイのワイシャツ。髪を撫で付けた男が言った。「これから順次、会場で審査を行います。ステージ上では五分の発声とチューニングの時間を設けておりますので、事前の調整は控え室にて各自が行って下さい」主催者側に、ステージではどのような機材が使われているかという、専門的な質問がなされたが、私はそれらの知識を持ち合わせていなく、内容は理解できないでいたので聞き流す。