コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

焼きそばの日10-4

「おい、客だぞ」凄みを利かせたらしいが、小川はまったく動じない。口元の筋肉は緩みっぱなし。「ネットに書き込んでやるよ、はっ」

「みなさーん」小川が窓から顔と右手を出して、大声で頼み込んだ。「このお客さんが髪の毛が入った商品を危うく食べそうになったって、怒っているんですけど、ネットに書き込んでやるって私に宣言したのって、脅迫になりませんかね?」お客はたじろぐ、振り返って順番を待つ列のお客の冷たい視線をじかに受けた。

「何で、大声でしゃべるんだよ、俺と話せよ」

「だって、皆さんに意見を聞くべきです。あなたのために他のお客さんの順番が遅れてます。当然です、事実を聞く権利がありますからね、私は話したんですよ。大体、どうなんですかね。食事の楽しい時間を台無しにした、だから怒りのやりどころを私にぶつけたんですよね。だけど冷静に考えて事実を観察してみると、やっぱり私たち従業員の髪の毛とは思えない。それにですよ、あなたは最初の一言で本心を打ち明けていました」

「はあ、何も言ってねえよ、そっちこそ言いがかりじゃないか。いいから、新しいパンに代えてくれ」

「できません。あなたはね、アイラのライブが見れないと言った。だけど、溶け始めていないそのアイスから考えるに、ライブを楽しむために前列、ベストのポジションを求めてステージへの入場口に並ぶ意志ははじめから微塵もこれっぽっちもなかった。髪の毛のためにわざわざライブの列を離れたとは、だってここはフェスですよ。アイラさんが二つ目のアイスを獲得する餌に使われたんだとしたら、とても残念ですよね。それにそれに、大人気のアイラさんのライブに三十分以上の猶予を持たずに観戦できると思ったんですか。ありえませんよ」

 列に並ぶお客から拍手が起こった、会場内のスタッフが何事かと、数人が小走りに集まってくる。インカムをつけた人物が一人、店の窓をノック。端の館山が窓を開けた。

「どうかされましたか?」

「提供物に髪の毛が入っていたらしいのですが、お客さんの自作自演だったみたいです」館山は事実を曲げることなく素直に話した。会場スタッフはインカムの耳にかかる部分を指でタッチ。会場の拍手が止んで、スタッフのやり取りが後半だけ聞き取れた。