コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

あちこち、テンテン 4-3

「大丈夫ですか?」心配している声も声色で真剣さの度合いが測れる。鼻で笑う私。店員はいぶかしげに見つめる。背の高い店員、彼目当てのお客もこの店では多数。当の本人はそれに気づかぬように振舞い、羨望を受けてきた自信は外側の鋼で覆い、内部はだらしなく非対称。
「何もされていない、大丈夫よ。それよりも、この窓ね、問題は」重さに耐えかねて塗料は垂れる。まだ、彼女の姿は見える。捕まえられる距離だ。けれど、私は窓の対処を考えていた。店員は、緑の後姿を見つめている。「予約のお客さんって今日は何人?」仕儀は聞いた。
「えっと、五時と六時半に一人ずつです」
「新規のお客さんを今日は取らないように。五時までにお客さんのサービスは終わりそう?」
「三時には終わるかと思います」
「わかったわ。とにかく、これを落としましょう。手が足りなくなったら呼んでちょうだい、片付けるわ」
「僕も手伝いましょうか?」
「手があいたらね」いるはずの通りに何気にまた存在するであろう人物を視界に納めようと顔を向けたけれど、底には少女の特徴的な後姿は何処かへ移動していた。なぜか少女がまだ後姿を見せてくれていると思えていたために、少女が消え去った通りが殺風景に感じられた。
 一週間に一度、休みの前日に窓ガラスの汚れと水滴を拭き取るワイパーを持って仕儀は店内のお客に会釈、壁に描かれた前衛的なアートはあっさりと水と洗剤の混合によって排除された。特殊な塗料ではなかったらしい。ついでに、アスファルトの赤い斑点にも洗剤をたらす。痕は消滅、黒に濡れたしみが地面に残った。なぜ、私はあの緑の少女を逃がしたのか、自分でも説明がつかない。私が汚れた窓を彼女に洗わせることを強制する権利を主張すれば、まかり通っただろうに、ただ離れる背中を見送った。

 赤の塗料は少女の血に見えていたのかもしれない。周囲に迷惑をかけるのでも、自らを犠牲その血液をばら撒いているのなら、ペンキのそれよりも自主性や付随する思想が感じられた。でも、少女は何もしていない。取り除ける塗料をまいた。水を流せば落とせる。つまり、一過性の衝動性のよる行動ではない。落ち着いて対処するように警告を促していたのかもしれない。見せ掛けの緑。あいまいで不釣合いな表情は捉える側を尊重していたとも考えられるか。あるいは、まったくの変人であるとも。私が指示した可能性を候補に上げてみた。仕儀は口元を緩めた、大きく笑う。声が出ないように口元を覆って。肩、背中が激しく小刻みに振動。
 乾いた布で窓の水滴を取り除く、動物園の檻の中の気分を外にいながら味わえた。小さい頃、動物園には一度だけ連れて行ったもらった覚えがある。特別、楽しくはなかった。知らない場所に足を運ぶので私は精一杯、人が多くて疲れて眠かった記憶しかない。今考えると子供に動物を見せて親はなにを思うのか。子供がすべて動物を好きかといえば、大人になった自分たちが一番はっきりと自覚しているわけで、体験させるべき経験ではないように仕儀は思う。まじかで動物を観察し、なにを獲得するのか。驚きか人間以外の動物の生態か、それとも子供が喜びそうだからという安易な発想か。見たいと言ったのだろうか。私は言ってはいない。要求は我侭であり、受け入れるのが普通だったから。
 久しぶりに思い出したかつての家のありかただ。
 約十分で窓拭きを片付けて、仕事を再開。午後六時、最後のお客を見送って閉店。明日は火曜日。窓は仕事中に拭いてしまえた。今日は私のおごりで月に一度の食事会を開く。店は最近オープンした通り沿いのレストランに予約を入れた。所要時間は数分。十分前に店を出て、昼食分を取り返すべく私を含めた四人は食事に向かった。