コンテナガレージ

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再現と熟成4-1

 出場者が壇上に集められると咳払いの司会者が授賞式の発表を宣言した。大仰な物言いで肩書きに乗っかる人物達の中身の無い、心の無い挨拶が三人も続き、発声者が司会に戻って審査結果の報告を述べた。受賞は、グランプリ、準グランプリ、特別賞、ライドン賞の4つである。ライドンとは音楽雑誌の誌名で、そこの編集長の好みで選ばれる賞を指している。宣伝なのだろう、こちらに見えるように最新号の表紙が机上のネームプレートの隣に立てかけてある。司会者は各賞に選ばれた者が次号の記事に載るのだと、語尾を上げて伝えた。

 グランプリ以外の賞が選出、該当者はそれぞれ一言、感想を述べるシステムらしく三人とも目に涙を浮かべて家族や友人、周囲の人間への感謝を口にしていた。やはり来るべきではなかった。誰のためって、自分のためではないか。支えてくれた?そんなのはただの幻想で一日の大半をあなたの心配で埋め尽くしている人などは家族であっても皆無だ。皆それぞれに生きて各自の生活環境を持っている。優しく接してくれたのは、あなたが、ただこれまでに表面化させなかった、つまり、好意を当然と最低の評価を下していたからだ。人は己の欲のために生きている、そうでないのならばこのステージすら立つことを許していない。ここに立っていることがわがままを貫いた証拠ではないか。あなたが出場する、歌うせいでほかの誰かの受賞を妨げる行為であるとの考えには行き着かなかったみたいに。不思議、自分勝手、曖昧な現実の捉え方。スピーチの決まり文句がマイクから響く、テレビの見過ぎ。

 ドラムロール。グランプリの発表。私が選ばれるはずがない。物語のセオリーとしてはここで受賞を獲得して歌手デビューに話が続くのだろうが、現実はもっと残酷でそもそも変化は自分で望まないと手に入ったりはしない。

 音が切れて、司会者のたっぷりとした間。番号と名前を高らかに口にした。