コンテナガレージ

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プロローグ2-3

 数時間ぶり、彼女は運転席に乗り込むとすぐさま煙草に火をつけた。灯り。ぱあっと、顔を照らす。マッチを引き出した灰皿に投げ込んだ。煙を吸って、ため息。行きがけに買ったペットボトルのコーヒーはすっかり汗もかき終わり、常温と仲良く手をつないでいた。

 フロントガラス越しに空が見渡す限り瞬いていた。先ほどまでの曇りは嘘のよう。

 この空をいつまで、あと何回みられるのか。 

 差し迫った残りを数える時に達してしまった。

 平均的な寿命を知っていたからこそ、計れるのだ。

 少ない、だから悔いを残さず使い果たす、むさぼりつくしてまだ足りないのか、貪欲で獰猛、鈍重にして動天。

 しかし、私はそうは思えない。限りがある、生まれたときにそれは備わっていたはずだ。

 私は見ていた、見つめていた、ずっとこれまでも、そしてこれからも見つめるだろう。

 隙間が生じると考えに傾いてしまうな、つまり暇だということ。

 エンジンをかける。ハンドルを握った。煙草を咥える、さび付いた平原入り口の赤いゲートを目標に、その間までに行き先をピックアップした。私に定住先はない。どこのホテルがいいだろうか。この時間では空室はあるだろうか、そもそもここはどこだろう。車は、ここへ事前に運ばれていたのだ。あの男側の手配によって。

 山道を下って、朝別れを告げたホテルマンにお帰りと挨拶を返してもらおう、彼女は決めた。

 舗装路にそろり、フロントを回頭、滑らかに、車体がすっぽり飲み込まれた下り坂に這う。

「もしもし、部屋は空いてますでしょうか。いいえ、本日です。はい、今から。ええ、結構です。昨日と同じ部屋が空いていたら、そこへ。えっ?ああ、そうだったかしら、私としたことが。お恥ずかしい。はい、はい、それでは」

 荷物が部屋に残っていた?私は荷物を持ち歩かない。身軽、手ぶらであれば、どこへでもいけてしまえる。そうしなくては仕事にならない、と言い換えたほうが正解か。しかし、部屋に置かれた荷物の存在を告げられた、ホテルが預かっていたという。当然私の番号にかけてつながるはずもない、未登録の番号は取り合わない設定なのだから。そればかりで収まるならまだしも、部屋を取った予約者は私の偽名も知っていたとは……。

 こぼれそうな灰を、引き出した灰皿に落す。ここは山中、いいや山の麓が妥当な位置だろう。後部座席を振り返った。静まり返った闇に動きを探そうとしてしまう、行き過ぎた脳のプログラム、洗練されたスペルチェックが言葉遊びを弾くみたいだ。

 サイドウィンドを開ける、車は通らない。どこかへ通じる抜け道ではないのだろう、すると平原の入り口ゲートより先上りは行き止まりと考えていい。