コンテナガレージ

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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?2-2

「食べるか、考えるかにしたら?」

「……ああ、うん。そうね、とっと食べちゃわないと、喋る時間がないんだった」真下の提案を受け入れる。彼女の言い方は強くもあり、優しさも携える。不思議な響きを持って届くのだ。彼女にあこがれる後輩は多い、また嫌悪の対象もその同数を獲得する、その点私はというと、頼られるはするが、学生の先輩という立場が当てはまる。あまりに距離が近すぎて何度か怒鳴りつけたこともしばしば、距離感覚が掴みにくい年配の同僚と噂されているはずだ、陶器のように見守られる真下とは違って。

 真下の食事が終わると、稗田はブルー・ウィステリアと支店長との関連を話した。ニュースで報道された死体の死亡時刻と支店長の失踪の日付が重なり、気にかかって頭にびっちりこびりつき離れてくれないのだ、と伝えた。周囲に漏れないよう、稗田は手を添えていた。

報道規制の真意は?警察側の思惑に合点がいかない」

「そりゃあ、そうよ。端末の発売に水を差すようなことはするもんですか。警察だってそれなりの恩恵を受けていてもおかしくはないんだから」

「恩恵ねぇ」真下は呆れるように言う。

「昨日ね、ブルー・ウィステリアにいってみたのよ」稗田は眉をクッと上げる。「見つけたの。屋上へはね、梯子を使わないと上がれない、古い建物だから。隣のビルに入って、トイレの窓から確かめたんだから」

「仕事が終わって何をしているかと思ったら、昨日こそこそ店を出たのはそのためか、小学生みたい」

「他人事じゃないの。支店長がいる、いないでは大きく仕事に影響するんだって、今日わかったでしょう」監視されるのと、無関心とは体力の消費に明らかな開きを体感していた私たちだ。ニュースが伝える人物が店長に思えて仕方がない、稗田の想像は膨らむ。

 支店長の奥さんは落ち着き払った態度で、家には帰っていない旨を隠すこともなく稗田の応対に快く応えた。

 昨日、出勤時間が過ぎた午前の十時前のことだ。

 何度かそういった家に帰らないまま会社に出勤することがあったようで、いつも三枚のワイシャツと下着を持たせている、とも言っていた。多忙な労働環境で家に帰る姿には外泊の理由は聞かずに迎える、これが支店長の家庭ならではのやり取りらしい。真に受けた私が浅はかだったのか、昨日のうちに警察に情報を求めたらもしかすると、いいや、稗田は首を小刻みに振った。