コンテナガレージ

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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?2-1

 二階の突き当たり、油絵が飾られる壁際の席に腰を落ち着ける。

 稗田真紀子は一人、コーヒーとサンドイッチを黙々と頬張る。

 昼休み。彼女はここ二日間を何気に振り返っていた。誰にでも気軽に話せる類の内容ではなかったことが、ため息と身を隠すように訪れたこの風変わりで昭和ロマンな喫茶店が何よりの証拠。

 三日前に支店長が店を休んだ。突発的な病気だと思った。しかし、翌日と次の日も支店長は姿をみせず、連絡すら取れない状況が続き、昨日はとうとう痺れを切らせた本社が人員を派遣し、支店長の役回りを代役に任せた。それでも、いくらか役立った程度、焼け石に水とはこのこと、特に店舗内の接客に関わる諸事項の際立った成果を支店長は要求されてはいなかった、そういう役職なのだ。カウンターに座るのは私たち窓口係がほとんどで、支店長はたぶん商品の説明や料金プランの説明は頭に入ってるとは思うけれど、お客を相手に、購入と契約の手続きを勧める作業を同時に行えはしない。私だって、毎週ごと、ひどいときは数日おきに改定される料金プランやそれに付随にする細かな契約の変更点を日々の積み重ね、メモリーの更新によって覚えられるんだ。休暇明けの衝撃なんて計り知れないぐらいの憂鬱、それを支店長が……、ああ、やめだやめ。要するに、派遣された統括部門の人員、支店長代理の手を借りる事態は、もう数日で尻尾を巻いて、ネクタイを締めて、身支度を整えて、スーツケースを転がして、店を去ってくれるはずだわ。

 ブルー・ウィステリアの屋上で死体が発見された、と報じた今日のニュースを取り入れたら……。

 湯気の立ったコーヒーはすっかり冷めた。サンドイッチは残りのひとかけら、ワンピースというのだろうか、三角、長方形を分けた直角三角形が皿に居座る。「あれは、支店長かもしれない……」稗田は呟いた。

「支店長が、なに?」風のように現れた真下眞子が対面の席に、椅子を引いて座った。女性らしいか細く息を吐く。店員にコーヒーとハンバーガーを注文した。彼女の肩に淡い緑のカーディガンがかかる。休憩時間を合わせて今日は休憩に入るつもりだったのだが、後輩が一人、腹痛を訴えて二時間ほど店を離れるバックアップに真下が借り出されたのだ。本社の統括部門の支店長代理は指示を出してからというもの、お客の見えないドアの地続きの事務室で支店長のデスクをあさっていた、私が店を出るときも、まだ何かを探す様子でしかし、声をかけても動じないことから、支店長のプライバシーが消滅したことが窺えた。つまり、会社がデスクを調べる正当な権利を持った常態。それは何らかの、支店長が、会社内に多大な業務妨害を行った、と考えつく。また、他の可能性としては、そう、ぐるぐると食事中も支配する考え、取引先の店舗、屋上で見つかった死体と支店長との関連……。稗田は無言でサンドイッチに手をかけ、引き戻した。