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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?4-1

 S市警察がもたらす事件関連の情報は微々たる量や頻度、もっとも簡単に捜査権が手渡された経緯を正当に受け止めるのならば、大よそ情報がこちらに降りてこない現状は予見できた種田である。それに、彼女は考えを付け加えた。ある種の議論を戦わせる管轄の違う(大まかに同業者ではあるが)、勝手の異なるそれこそ隣国のように双方の手法を宣言、主張する途方もなく無駄な時間を費やさずに、捜査が単独で行えるのは、種田にとっては大いなる利点と考えていいだろう。

 事件発覚から二日後。S市警察の取り計らいでようやく、死体の解剖結果を公開するとの通達が早朝の五時に鈴木の携帯にもたらされ、彼からしゃがれた寝起きの声で現在の所在地、S市中央署の地下、死体保安室に先ほど着いたばかりであった。当然のごとく、受付では死体の情報公開の許可について、そこでもう一度上層部に問い合わせるという回りくどい過程を巡りめぐって、ようやっと到着後三十分を越えた時間に、地下へと案内をされた。

 死体を直接見せる許可は下りていない、とのことで解剖室に隣接するデスクや冷蔵庫など人が活動するには手狭な部屋で女性の解剖医が淡々と告げた。悪びれる様子もないのが種田には好適に映った。返答のレスポンスも早く、クリームパンを頬張る姿を除けば、眼鏡をかけた容姿と片方に流すまとめた髪は異性に対する反応を予見させる効果を当人が認識した姿であると、種田は判定を下す。自分はどういった作用であるかは計り知れない、そういった着飾るという行為に意識がまるで向かない。生まれ持った性質・形質かもしれないし、他人に指摘されるとより一層、興味を失うが不思議だった、反発や否定とは別物。彼女はそもそも理解に感情は不要だと思っている性質だ。想像はできてしまう。しかし、行動は伴わない。無駄な議論に終幕、ぎりぎりとワイヤーを引き込んで幕を下ろした、種田は本題に入る。