冷たい、ドライアイスの冷気が四隅のプラスチック容器からゆらゆらと立ち込める。
思い切りが肝要、とばかりに鈴木は一気に足元までチャックを下ろした。死体が姿をみせる。
頭部の損傷が顕著だ。体には細かな硬い石のような鉱物が付着する。当然鑑識が調べているはずだろう。
ハンカチで口元を押さえる種田は足元を眺める。遠目から、そして距離を詰めて、触れるほどの近くへ。
性別は男性。中年に差し掛かった年齢。服装はスーツ。所持品をチェック。当然、回収済み。ざっと見渡す。しかし、際立った印象は得られない。
蓋を閉め、鈴木は大げさに外気を口に含んだ。「ふうう、はああ。いくら経験しても死体の匂いは慣れない」
「あまり大声を出すと、気付かれます」
「失敗ないさ」鈴木は種田の前を通り、地上の行列を覗いた。通行整理のため、ここからでもかすかに南の方角に列の一部が見える。「入り口に夢中だ。建物の写真を撮ってるけど、こっちに気付くのは写真をSNSに載せ、閲覧した奴が指摘するぐらいだろう」
「コンテナは以前から置いてあったものかもしれません」私は足を折って細かな砂を撫でた。「左の隅か、階段の左手にあったのでしょう」
「だったらなんだっていうんだよ」
「蓋を開けると真向かいのビルの視界は遮られる、もっとも死角は最上階には適用されない。林さんの話ぶりからは少しでもリスクの回避に努める対応を取ったことが窺える。ただ、左右の後方の視界は塞ぎきれない。四十五度、死体の搬出に邪魔にならない程度の角度を保つと、通りに面したビルの窓からは見えにくい状況が作れる。ただし、これにも側面のビル窓には不適、そっくり状況は丸見えです。そして、背後の視界は斜めと真後ろ共に隣接するビルは明り取りの窓のみで、大きな窓はありません。ただし、路地に面した側に一棟通り向こうのビルが観測に最適です。三階から上すべてが特等席、私が狙うならそこにカメラを構える。つまり、コンテナの位置は死角とは無関係に思います」