「わかってやってるんだな」
「わからなくてはできません。行動を起こして、S市警察の思惑を量ります」
「頼もしいのやら、無謀にも思えるよ。種田の行動力は」
「はい、それでは、いいえ冗談がお上手、ふふっ、はい、また、お食事でも、いずれ、はーい」田所は無造作に、受話器を投げるようにおいた。「ったく、動物的な脳みそは随分と発達して、下心かあ、あーあ、気色悪い。そっちの青年、君はいつまでもそうやってなれなれしい態度をとっていると、取り返しがつかなくなる。気をつけなさない」
「僕がですか?」鈴木は高い声でいう。田所はクルリと足を浮かせて椅子ごと振り返る。
「距離間隔と言葉遣いが肝よ。耳をむやみに近づけたり、下の名前で呼んだり、肩を叩いたり、プライベートな、主に異性関係を尋ねるのは御法度」
「話はついたのでしょうか?」種田が鈴木への忠告を振り切って尋ねる。中々前に進めようとしない、退屈か孤独を嫌う彼女の特性と思われる。
「三階の、突き当たりの右のドア。エレベーターを降りて、左よ」
「署内を歩き回る入出の許可は下りてません。ここを出たら、すぐ戻るよう言われてます」
「融通が利かないね。上があなたたちに命令を守れって言い聞かせたのは、それだけ目を離してしまう隙が上の連中にもあるってこと」彼女は指を振る。「もっとクレバーに生きないと。廊下で話を聞いてるとは思えない。本心はね、あんたたちを掌で泳がせたいのよ、上の連中は」
「僕らはいつも呼ばれる割にあてがわれる権利と役目にでーんと開きをかんじてます。それってつまり、ほどほどに動けってことですよね」
「だからなに?」回りくどい鈴木の質問だった。