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不躾だった私を、どうか許してくださいませ4-1

「呼び止めてくるよ」鈴木の立ち上がりを種田は素早い身のこなしで制した。動かない動物、動物園の檻であろうと元来備わった能力の一端を垣間見せた。彼は引っ張られるネクタイによって、席に引き戻される。そして、背後をそっと見やる。気付かれていない様子に、ホット胸をなでおろすと、こちらを睨みつける種田。しかし、大人になった僕だ、鈴木は先輩の立場を思い出した。音声は抑えて、小声。「何で、止めるんだよ。現場周辺の聞き込みは禁止されてるけど、直線距離約三百メートルのS駅の喫茶店にS市警察の捜査員がたまたま休憩がてら僕たちを見かける確率は相当低いと思うけどね」

「そちらではありません」種田は立てた親指を寝かす、指が示す先を鈴木の不条理に満ちた視線が追う。見届けて、彼女は付け加えた。「事件の目撃談が聞こえました。万が一、私たちの身元が判明した場合、こちらの情報を逃すことになります」

「だけど、確実に死体というワードを口にした。現場も符合する、それに隣の会話の盗み聞きはお前一人だって十分だろう?」

「私はお前ではありません」訂正を種田は求める、一度許可を出したら最後、男性は、特に私よりも年齢の上の人物は氏名による呼びかけを照れ隠しの一貫に包む、穿った思想背景を平然と共用したがるのだ。