「そちらの刑事さんが、理解されてると思います」美弥都が送った茶色の瞳を種田はがっしりと受け止め、弾き返してやろうと願ったつもりが、すぐにそらされてしまった。読まれていたか……まったく、抜け目がない。
「まず、私の本意でここへ、あなたを目的に、話を窺いに、わざわざやってきたのではありません、という弁解が必要です」鈴木は種田を睨みつけた、黙っていろ、彼は口を塞ぐジェスチャー。
「あの、こいつじゃなかった、種田のことは気にしないでください。僕が事件についてのレクチャーを受けに来た張本人ですから」とん、と鈴木の胸が叩かれた。折れそうなほどの厚み。内部に響くどころか、破壊の不安を煽ってしまう。
「何度目でしょうね、このやり取りは?」
「いやなら、応えなくて結構」
「種田、ちょっと黙ってくれ」
「話すな、話せ」美弥都は言う。「意見をまとめてから再びご来店を」
「そんな、まってください。一分、いいや三分ください」
美弥都は動きを止まった。
こちらも折れそうな首がぐるっと回る。肩が凝っていたようだ。
「やっと、建設的な発言が登場したようで。安心しましたよ。いつも私の要望は不釣合いなほどにこちらが譲歩しなくてはならない提案を受け入れていたのですからね」
「もったいぶってないで、さっさと話したら、いかがかしら」種田は美弥都の口調を真似た。しかし、美弥都の表情は冷静そのものだった。水音が途切れた。彼女はエプロンで手を拭き、水分を取り除く。次に取り掛かった作業は、水切り籠に並んだ今さっきお客の手元、口元に運ばれたコーヒーカップである。釉薬の青、斑な黒が彼女の手の中で踊る。
「読んでいただけたのであれば、話は早い。なにか事件解決のヒント、手がかりがあれば、と思います」
息を吐くようだった。