コンテナガレージ

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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?7-3

 店主が語った内容を鈴木が打ち込み、印刷した用紙をカウンターの衝立に店員に見えるよう鈴木が置いたのが、数分前。美弥都は作業の片手間に紙を覗き込む仕草を一度だけ行った。一度で覚えたのだろう。そうではないか、画像として記憶にとどめた、速度だったと思う。お客が帰らないと、事件の話は聞けない、これは鈴木も承知していて、喫茶店には付き合うが、三十分以内に返答が聞かれなければ、即座に店を出て現場に向う、と種田は車内、喫茶店の駐車場で約束を交わしていた。現場に戻ったとして現場周辺の捜査は限られているのだから、と鈴木は反論したが、ネットに溢れた目撃情報の変容が気にかかったのだ。昨夜自宅に戻り、珍しく種田はネット上のサイトを調べようとしたものの、鈴木が探し当てたサイトやSNS等の個人書き込みが意図的に改変されていた。 画像が削除されて、記事も飛行船やブルー・ウィステリアに関する内容のおそらくすべてが他愛もない、夜景と当日の記事作成者に起きた各自の出来事しか、参照できなったのである。

 鈴木は右隣のお客に釣られる。煙草に灯がともった。許そう。そもそも私に鈴木を彼を縛り付ける権利は昨日と比べると格段に、量で言えば、微量である。ぱっと話してしまっても、十分だ。遅刻がまだまだ私が尾を引く。

 喫茶店では何者かが監視カメラで見張っているかのように、こちらが動きやすく店内の配役がこぞってどこかへ誘導されるみたいな場面の転換が訪れた。トイレに立つ種田を合図に、カウンターの光景は鈴木を残し、体温を残す素のスツールがトイレを出た彼女を出迎えた。そういえば、ここの店主の姿は見えない。種田にとっては好都合、といえる。ここの主人は警察に対する警戒心が人一倍強い、もちろん警察が店内において殺人や死体、拳銃などのワードを発するのだから、弁解の余地はないものと受け止めている私だ。

「日井田さん、少しお時間、よろしいですか?」鈴木は大胆にも片付けに奔走する彼女に問いかけた。シンクに流れる水流が聞こえる、種田は席に着く。

「……」一回目は無視。ただし、その程度のあしらいで鈴木はめげない。陽気と根気を混ぜ合わせた彼の性質である。