見計らって、再度着火。今度は勢いよく、前髪を焦がすところだった。危ない。
ランチのメニューは今日からまたもや実験週間の突入に切り替える。それはつまり、ほぼ移転の結論は出ている、と早合点をしてはいけない。もしも場所を移す状況に追い立てられたとしたら?僕はそういった場面・状況を作り上げたいのだ。損はしないはず。ここのところ、厨房の二人の技術は格段に進歩を見せている。それぞれがなすべきこと、与えられた仕事の意味を常に考え、吟味、反芻、そして体現をこともなげにやってのけるのだから、店主として口を出す機会は大幅に減った。そういった種々の事情も新たな取り組みの契機になった、といえるだろうか。
店主は、かき消されるのを覚悟で煙を吐く。予想通り、期待通り、思ったように煙は流れて左上空へ運ばれていった。その間も指に挟んだ赤い玉の先端をもくもく、もんもん、ゆらゆら、へらへらとうっすら白い煙がわんさか解き放たれる。さっきのランナーが往復、速度は少々落ちたのか、それとも調整したペースか、聞いてみないことには詳細は明らかにならないし、たぶん、いいや絶対にここを離れた途端その興味は真っ白に霧散するはず。
移転先の誘われた新装ビル、宇木林が置いていった改装前の写真を思い出す。
むき出しの配線、取り払われた内壁、床に散らばる厚い紙のような断面の破片、若干の埃っぽさ、ヘルメット被る作業員が一人映り込み、構造上残された中央やや左に並ぶ四角柱の三本の柱、写真の角度からさらに数本の存在が予測される。