コンテナガレージ

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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?1-9

「いいえ、私が資金面の交渉を持ち出さなければ、あなたは通常の資金調達の過程をもう一度、潜り抜けなくてはならなかった。あなたはあなたが提供するものの価値を、外から見定める習慣を持つべきかも知れない。年長者の忠告です」

 桂木がしみじみいう。「いやぁ、店長さんの才能を私は見間違えてましたなあ。あなたがここまで、頭が切れるとは、いやはや、お見それしました。謝ります」

「まったくお詫びをされる覚えはありません。それにずっと舐められていたほうが、私には動きやすくて助かります」

「樽前さんは了承してくださる、ということでよろしいかな?」宇木林が細く煙を吐いたと同時に訊いた、まだ長いタバコが押し付けられる、包まれた葉がわさっと漏れ出した。

「……うーんと、そのですよ」樽前は忙しなく視線をホール内に動かす。

 そのときドアが開いた、休憩を終えた館山が帰ってきた。「私は、えっと、一人ですっ。もっといえば、開業したてのスタンドから目は離せられないし、二つの店を同時にだなんて、そんなの、体力が有り余っていても、物理的に不可能です」

 宇木林は微笑。「はい、もちろんあなた一人というわけにはいかないでしょう。ですから、あなたがいなくても店があなた同様のサービスを提供可能な環境を作る準備を、これから詰めていくのです。お一人での仕事ですから、取り決めた仕事の対応もおそらくはあいまいな部分が多く散見される、誰しもがそうです。まずは、コーヒー豆と抽出方法の選定を進めましょう」

「あの、まだ僕は、引き受けるとまでは……」