コンテナガレージ

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今日からよろしくどうぞ、不束者ですが1-2

 夏季に打ち出された節電計画の影響で可動の停止が続いていた改札左脇の大画面は,夏の冷房による電気使用量の逼迫の危険が解消されたのか、いそいそとまた電力使用に踏み切った様子。それほどの急を要する情報が流れているわけではない画面、映像や画像は企業や商品の宣伝及び広告である。天気やニュースの字幕が常時縦と横に、見づらさの配慮をまるで無視。とにかく伝える、知ってもらう意識が強い。必要そうだから、という理由が画面を作り上げた大本の決断。いや、決断ではない、惰性的な継続に違いない、と店主は感じ取る。

 後続が先頭を押し出しす地下道のドアが半開き、閉りきらないうちに受け取る。

 風が吹き込む階段付近はやはり少々肌寒い、薄手のコートを羽織っていても、指先や露出した首元、顔全体が冷気の受け取りを拒んでいるのかも。

 一つ目の角、呉服屋の左手に曲がり、宝くじ売り場の隣の圧力に負けない重量感持たせたドアを引いて、急勾配ですれ違いに体を横に空間を開ける狭小の階段を上り、地上に顔を出す。外は思ったほど寒さを感じない。日が昇ってきたから、と店主は理由をそこへ落ち着けた。お決まりの挨拶、スクランブル交差点に振り返って、そっと少ない人の横断に朝を告げる、やっとこれで今日の始動。

 路地に入り、ビルを一つ越えて、外壁の汚れがクラシカルな印象に移り変わったかつてのピザ屋に出窓の中で休む釜を視認、宝箱を開ける大仰な鍵をコートのポケットから取り出す。 

 それから店主は、日常の世界に身を投じた。

 ランチの仕込み開始から一時間を目処に、二人の従業員が出勤してきた。まだ出勤の時間の一時間前であるが、これはいつものこと、僕と同じ時間に作業に取り掛からないだけ、良しとする。作り手の技術を学びたい、盗みたいというのが、彼女たちの主張だった。もちろん僕は技術を教えるつもりはない。彼女たちが考えて行動に移すべきである、これが僕の考え。

 つややか、長い黒髪を器用に束ねる館山リルカが今日のランチを尋ねた。当然、昨日の帰り際に伝えた予定の変更を彼女は心得ているからこそ、出勤を早め、開口一番着替えを済ませるなり、問いかけたのである。