コンテナガレージ

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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?1-2

「ああ、食べに来たのではなくってですね、あれっ、もしかして移転の話を聞いないんですか?」

「移転?」

「なに、どうしました」小川が話し声を聞きつける、皿をカウンターの戻すついでを彼女は装う。

「いや、まだなにもきいてないよ」

「ああうっと、これは朝はご馳走さまです」小川は頭ごと、首を胸に格納するように織り込む。小川は樽前を紹介した。相手はこちらのことを知っていたらしい、店主は顔を合わせた覚えはない。中心街へ車で通勤するのは利便性と費用面からも考えにくい、そのため店を出入りする朝と閉店後に地下鉄か、改札までの地下通路で見かけた可能性はあるのかもしれない。

 彼は顔の横で手を振った。音を立てる紙袋の中身がドーナッツであったら外国映画そのもの。ここ数日ドーナッツや甘いものはあまりランチでは提供していなかったように思う、うん、店主は一人物思いに耽る。

「いえ、いえ、最初はサービスとして提供したので、皆さんに振舞っているんです。なかには、気を遣わせてもう一杯別のコーヒーを頼むお客さんもいらっしゃいますけれどね」

「移転がどうとかって、いいましたよね。店をあそこに構える前のことを話してたんですか、興味がありますね、どこですかね、うーん当ててみましょうか、そうだな、あまり少ない資金的な側面を、これは失礼を承知でいいますけれど、郊外のそれも車が集まる娯楽施設、ショッピングモールとかの駐車場で、ワゴン車を改良した、ほら、たこ焼きとたい焼きとか、焼き芋とかを売る車で転々と売り歩いていた、いやっ、売り走っていたんでしょうよ」

「小川さん、ちょっと静かに。樽前さんはまだ何も言っていないよ」まくし立てる小川を店主はやんわりと引き下がるように諭す。急に冷水が熱湯と混ざり、小川は興奮したはしたない振る舞いを自覚、数センチ縮んで積んだ皿から手を離した。