コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?1-1

 二日前の気温低下をきっかけに、一挙に秋めいた気候に移りつつあった。ランチのメニューにはかろうじて残暑の到来を待ち構えているが、取り越し苦労に終わることは目に見えている。

 北の秋は日中こそ半そでを強要するも、朝晩の冷え込みは長袖、山間や海岸沿いは薄手のコートの着用義務が下る。ファッションは秋や冬が盛んだと、店主はきいた。二十歳の小川安佐がもたらした情報である。彼女たちの年代を推測するに、その日の気分に服装を合わせる、あるいは気分を高めるために昨日とは一昨日とは印象の異なる服を着用する、ということに思える。あくまでも想像だ、僕はほぼ同じ装いで十分に気分のコントロール、統制は取れている。外部に影響の因子を求める怖さを世の人たち、主に女性は気がついていないらしい。女性特有の脳の働きがファッショナブルな装いを書き立てる、どこかで耳にした話ではあったように思う。お客の会話だろうか、積極的に取り入れたのでは決してない、それならば僕が忘れるはずがあるものか。

 怒涛に過ぎたランチ、その後の仕込み。まだお客が残した気配がうねうねとホールに漂っている。

 店内は数分前に国見蘭が午前の会計を済ませて、休憩に入り、その前には館山リルカが店を出ていた。店内は小川と店主の二人。明日のランチ、その概要を考え始めるのがこの時間帯である。小川は食器の片付けをまもなく終える頃だ、洗浄器から発する警告音が途切れていた。

「こんにちは」大学生を思わせる風貌の男が顔をみせた。店主は彼が抱えるこげ茶色の紙包みを視界に入れて、登場人物の正体を思い出す、彼は斜向かいに店を構えた「テイクアウト」というコーヒースタンドの店主だ。

「ランチはもう終わりましたよ」店主は近隣の店舗だからといって交友関係を顔に書き、互いに手を取り合いましょうという表面的な態度と一線を画してきた。