次に図面も思い出す。これぐらいの記憶力は持ち合わせる店長だ。世間の出来事に無関心であるがゆえに、限られた記憶装置はこうした短期的な記憶を平然と数週間の保存が可能だった。
調理場の狭さは第一の関門。一度に取り掛かる人数は二人が予想される、となれば残りひとりの立位置を変えなくてはだ。しかし、ホールに放出するとは考えていない。あくまで調理人としての機能を彼女たちには求める。すると、時間的な正確を課したらどうだろうか。他の作業場をもう一つ借り受ける。レンタルでもいい。下処理や長時間の調理作業を行う場所の創出というのも一つの手ではないのか、という新しい提案。
湯水のように浮かぶ案。まとめ上げるのにも一苦労。だが、楽しい。ほころぶとはこのこと。風が吹いた、共感みたいに。
煙草と別れを告げる店主は、店に戻った。釜の温かさが室温を高める作用にありがたみを感じる季節と早朝の肌寒い気温低下。体を温める料理を体は欲しがる頃だろう。食欲が増す季節、外で食べるよりかは店内で食べたいと思うか、突風に髪の毛が乱れることを嫌うお客も存在する。
本日のランチを店内で提供する、店主はそこまでを通路と厨房の段差を越えるわずかな時間で決めてしまう。いつになく思考の回転が速い。やはり、適度な空腹は体の作用を最適化するらしい。
ランチの提供は午前十一時きっかりに始めた。国見蘭はいつになく厳しい表情を浮かべつつ、しかし接客には支障を及ぼさない程度で、食器を下げるときに一点を見つめ、館山リルカはピザ釜に張り付き、生地に均等に火を入れ、皿に取り出し、次の生地を投入し、リズムを刻むようにグラスの水を飲み干しては口を手の甲で拭い、釜の内部とにらめっこ、小川安佐といえば、付け合わせのサラダの不足に対応するべく、洗い物とホールの国見にピザを手渡す仲介役またはそのままホールへ食事を提供する係りと幾つもの顔を持った仕事振りをこなした。