コンテナガレージ

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静謐なダークホース 3-3

 一枚、ピザの注文が入る。館山の厨房に戻る反応を抑えて、店主が生地を焼いた。お客が会計を済ませ、地下鉄と電車の駅に向かう。ちらつく程度の雪も風で存在感を高めていた。

 ピザはどうやら、館山の知り合いが注文したようで、館山が厨房に戻り、直接彼女がお客へと運んだ。ホールの国見が皿を重ねに重ねて、洗い場の小川に尽きない洗い物を増やす。国見が声をかけた。

「店長、オーダー締め切りました」

「そう、ありがとう」ホールのざわつきが消えている、お客はホールに一組とカウンターの一人のみだ。店主は厨房の片付けに取り掛かる。

 斜め後ろから館山がそっと声をかける。ささやき声である。「店長、ちょっとお時間よろしいですか?お昼のチョコレートのことでお話しがあります」口に添えた手で館山の顔は半分ほど隠れていた、他の従業員にも知られたくはない、知られてはまずい、内容なのだろうか。適当な理由が思い浮かばない店主は、思いつめたような真剣さも彼女の態度に感じたので仕方なくコンロを洗う手を止めた。

 手の泡を流して、カウンターに出る。迎えた女性が立ち上がる。そして、用意された名刺とともに名乗った。

「イエス食品の比済と申します。お忙しい時間に無理を言って押しかけてしまい、誠に申し訳ございません」比済という女性が、縮こまった姿勢のお辞儀をみせる。謝りなれていない人物のぎこちない動作。

「手が空いたところです、どうぞ」店主は着席を促した。一歩引いた姿勢で構える館山にも座るよう言う。ある程度は慣れた距離が人との会話に最適であると、店主は思っているのだ。テーブル、つい先ほど釜を出たピザは皿には乗っていない。比済の胃袋の中、ということだろうか。

「早速ですが お預かりしました食品の検査結果ですが、こちらをご覧ください」彼女は防水加工のクラッチバックの紐を解き、封筒を取り出して、一枚の書類を店主へ提示した。そこには検査項目とそこで確定された成分とその分量が書かれていた。

「この赤い波線は?」項目の二箇所に印刷後にペンで書いた痕跡が見受けられる。おそらく通常では検出されないはずの成分か、その量が見つかった、と推測するが、あらかじめ館山はその可能性を彼女に伝えていたことも検査を頼む段階では必要な説明であったと解釈。だとすれば、また別の可能性があるのだろうか、そういった意味で店主は疑問を投げ掛けた。

「自然及び人工的な我々の技術を持ってしても、現在では不可能な成分量が検出されました」独特のアクセント、淡々と話す比済であるが、前髪を横に分ける仕草が感情の揺れを如実に表している。

「といいますと?」