コンテナガレージ

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ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって3-2

「なにか私の端末に不都合でもありましたか?」無知を装って、種田は尋ねた。

「いいえ、そんなことはありません。……大変申し上げにくいのですが、お客様の機種はかなり古い型で、現状に見合う機種を探しておりました」

「変えろ、といったのはそちらですから。こちらは届いたハガキに従った」

「ええ、現在の機種では新しい料金プランに適合しないのです」店員は過度に笑う。真実を和らげる働き、滑稽であると気がついてもいる、感情の板ばさみはとっくに克服、通り過ぎた過去の産物、図太い神経は自らの居場所の確保。「お客様、この際大画面の機種に変更を思い切る、というのはいかがでしょうか。大変便利ですし、通話もクリアで聞き取りやすい。多少は外出先でネットに繋ぐこともあるかと思います」

 終話の後半がお客にイエスを言わせるワードを散らす、前半は店側の押し付け。わかりやすいセールストークだ。染み付いているから通常、お客は説明に耳を傾ける時間ごとに意識を変えられてしまう。認めた部分は真理が、相手の話全体を勝手に認めたと、思い込んでしまうのだ。休む暇を与えなければ、畳み込むように契約は成立する、という手法。

「現在使う機種の後継機はありませんか?」種田はきいた。

「もちろん、ございますが、ご利用料金は大画面の機種であっても、思っているほど違いは少ないと思いますよ」

「それは、そちらの感覚です。先月の利用料金はいくらだったでしょうか?」

「お調べしますか?」稗田が手際よく、にこやかに問い返す。

「過去一年の料金利用を見比べてください、私のためではなく、あなたが理解するため」つい言葉が過ぎた。話を引き延ばし、店の内情、支店長の所在を探ることが自らに課せられた使命であるのに……。

「……少々、お待ちください」怯んだ稗田の手がキーボードを叩く。動きを止めた稗田が言う。「ほぼ基本料金、無料通話料をいくらか越えた、使用ですね。端末画面の見にくさを感じられたことは?」