コンテナガレージ

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ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって3-3

「まったく。使い勝手がよくなれば、利用に踏み切るかもしれない、試しに使ってみては、そういったお誘いはメールか、最近では減ったダイレクトメールで十分、おなか一杯です。まるで、話を理解していないようですね、機種変更をお願いしているのに、何故要求が通らないでしょうか。すみませんが、どなたか、あなたよりも上の方を呼んでください」

「あっと……、実は、そのですね、支店長は」彼女は暖簾のかかる、カウンター側の壁の奥まった地続きの空間を見やる。そちらが事務室、控え室なのだろう。

「どうかされましたでしょうか?」背後、後頭部の上部から声がかかった。種田は首をねじる。頬に縦の皺が刻まれた男性、スーツに身を包み、崩れない程度の髪を固める中年の男性が笑顔で迎えた。こちらも笑顔の要素は稗田と同質。

「この方の上司ですか?」

「はい、沢木と申します」

「支店長さんで?」

「私は支店長代理。ですが、現在この店舗の責任者は私ですので、ご要望があれば窺います。稗田さん、私と交代しましょうか」

 二人は無言のやり取り、種田を挟んだ上空で行われた。稗田は立ち上がっていた。上がった腰はそのまま、助けを求めた奥の暖簾に消える。カウンターを回り、支店長代理と名乗った沢木と対峙する。

 種田は単刀直入に身分を明かすことを決めた、鈴木には内緒、身構える前に相手の反応を知るには、この方法がベストだ、と彼女は判断を下した。それからは、沢木の表情の変化を残らずに記憶し、動向と動揺を見定めるつもりだ、私たちに残された手がかりはこの人物がもたらす証言にかかっている。じっくりとだけれど入念に相手の挙動に注視した。

「機種変更のご相談ですか、なるほど、大画面の機種はお好みでないという意見ですね、はいはい」

「お聞きしたいことがあります」種田は切り出す。沢木は斜めに傾くPCの画面を捉えつつ、問いかけに遅れて首を動かした。