コンテナガレージ

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 しかし、地上に上がったはいいものの、店に入れるわけではないのだ。

 昨日の日曜から耐震工事がとうとう、というか移転が決まるや否や、移転先の内装が決まったのが先々週の始め、路上で倒れた通行人の介抱に当った二日後で、その翌日には今日の日程が組まれたスケジュールを不動産屋の桂木が無理を承知で頼み込んだのだ。しかも、工事を請け負う業者にはスケジュールの日程を既に伝えてあるというのだから、これまた従業員、特にホール係兼経理担当の国見蘭の霹靂が落ちたことは記憶に新しい。ただ、そこは桂木の思惑に流され、僕は営業停止期間の売り上げ分は移転先の諸経費に回すことを提案した。その場での回答は見送られたが、後日数日後に桂木が携えた契約書に、サインを交わせたのは、また一つ移転にかかる費用を抑えられた、好転に働いたアクシデントであった。

 グレーの幕がかかる、安全第一と地上三メートルを白い鉄板がそそり立つ。工事期間内は、お客に移転先と同店舗の再開時期を明記した看板が足場の前に、ひっそりと佇む。時間が早いせいか、あるいはそれほど店への薄い関心か、仕事場に急ぐ足を止めるまでの効力は、工事風景と看板といういつもと様子の異なる環境でも、力不足らしい。

 当然、といえば、当然である。高々、飲食店が一軒、拠点を変えることが他人の生活に影響をすぐさま及ぼすはずもないのだし、付け加えるとだ、正午やディナーの時間帯を迎えて、やっと現実の観測が計れる、時間が早すぎるだった。どうやら気が気ではない従業員の心配性が自分にも若干ではあるが、移ったらしい。