コンテナガレージ

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本日はご来場、誠にありがとうございました5-17

「……はああんと、うーんなるべく柔軟性の固まりだって思い込んでいた私でも、しっくりきませんね」小川はもだえる。「つまり、噂を嫌い、新製品の売り上げを守るために社長、林さんでしたか、その人は事実を警察に打ち明けることを拒んだ。そればかりじゃないですよ、停電も青い光だって仕組まれた罠の一端だった……。刑事さんたちも知らせたんですか、店長の推理?」

「すべてを話す必要はないよ。その社長だって、口を噤んだ」店主は肩を竦める。「僕だって真実を隠したい」

 従業員に解散を命じた。

 あんぱんの加糖がもたらす生命維持や生体機能の若干の回復はかりそめであって、すぐに化けの皮が剥れるのだから、早急に体力の回復、それはつまり翌日へ、更にまだまだ先の未来に欠かせない店の大切な戦力を僕は求める。正直だろう、だってこうして発言は誰かに言わずとも訊かれれば、応える準備に余念はないのだ。

 一階北側の出入り口は屋外と店内との中間部、天井に近い高さのドアが開放感を演出し、広く取られた空間にエレベーターとトイレを配し、スタッフ専用の出入り口はトイレを左手に、通路の正面に裏口に通じる。

 足音が響く通路、男女に分かれたロッカー室に入り、店主は着替えを済ませた。

 店内に戻ると、警備員が姿を見せ、元栓のチェックを受けた。樽前の店にも立ち会った。

 パン屋の店主に挨拶をして、僕はビルを出た。

 人は何かしら、嘘を抱えて生きるのだろう。

 地下鉄を目指す。空、月は雲に隠れる、地上、人は少なくて、疲れは徐々に引いて、足取りは段々と増していった。

 僕がつく嘘を一つ、明示してみようか。普段なら、思いもつかない、瑣末な取り組み。明日のランチメニューは未定であるにもかかわらず、遊びに走る思想はものめずらしさすら覚える心境だ。

 僕という呼称は一般的な使い方にはそぐわない。

 私の性別は女性だ。

 ただし、誰も私のことを名前では呼ばなかったことは、推理に花を咲かせた事件に比べると実にフェアな態度だと思う。

 地下にもぐりこんだ、改札を通り抜ける、階段を降り、車両を待った。

 風が乗降口に立つ男性のチェスターコートをはためかせ、スリットが捲れた。

 前髪が踊った。髪を切ろう。次の休日に。