コンテナガレージ

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本日はご来場、誠にありがとうございました2-7

「おそらく事件の公表は正当に情報開示が行われた。しかし、それと今回の集団卒倒を結びつける材料が極めて少ないのです」

「と、いいますと?」灰皿を叩いて、リズムを取った。僕は煙を吸い込む。

「ブルー・ウィステリアの番地ですよ」鈴木が言う。「明治の終わりから昭和の初期にかけて建造された建物は当時、番地という細かい区分けがなかったので、その時代につけられた番地がそのまま建物を示しているのです。建物を買い取った代々の企業が大手の有名どころで占められていたことも加味したんでしょうね、郵便物の配達があて先不明で送り返されずに、目立つ建物に届いた。<S市中央区3>、住所はここで終わります」

「新聞等のニュースソースの記事も屋上の事件は、企業名は公表に至らなかった、ということですか」

「はい。間違いではありませんし、その、なんですか、取引といいますか、今後の協力体制が結ばれたのでしょう。僕らも口止めされてましたから、全国紙と北海道の地方紙は少なくとも企業名は伏せてあります。それに、被害者の身元が不明だった、これも気付かれなかった要因ですよね、はい」

 被害者の公表を避ける段取りを翌日の朝刊に間に合わせる時間的な猶予があったとすれば、店主は煙草をくゆらす、忘れていたコーヒーも一口のみ干す、後続の情報取得に動きそうな媒体を前もって制していた、と考えられる。

 お客が来店、真後ろの席に座ったようだ。刑事たちの視線を一点に定めて、しかし首から下の動きは奇妙なほど流麗に通常の活動と変わりがない。しかも、発する緊張を放って、すぐに押し込めた。指名手配にそっくりの人物でも座ったのだろうか、いいや、店主は想像を打ち消す。彼女たちの部署はかなり特殊な組織だと聞いた、管轄区域をまたいで捜査に借り出される連中が交番に張ってある指名手配半の顔写真を、それがいつか役に立つ、使命感に溺れる人種には到底思えなかった。

 腕時計を確認する。利用価値がやっとめぐってきた。なるほど、店主は一般的な意見をここでトレースした。暇だから時間を確かめるんだ、つまり現状と理想との狭間で早くこの無意味に降りかかる、やるべきこなすべき、片付けなくてはならない義務感満載の生きていく術、その糧の一部の対処に当っていたのか……。なんとも、しかしそれはお目出度い。だったら捨ててしまえばいい。そうもいかないのか、この世界は生きていくだけ、ただそれだけでも莫大な費用がかかる。

 新しい煙草に火をつけた。無論、前の一本は灰皿に押し付けた。

 通りを見つめる、いつの間にか黄色が主流になった木の葉が風に舞って、歩道と道路を埋め尽くす。

 トラックを目で追う。

 連絡を待ち焦がれる珍しげな心境を体に落し込んだ。