コンテナガレージ

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本日はご来場、誠にありがとうございました4-2

「私という付き合う恋人がいながら、他の人と付き合う。これは私にとってありえない、異常性の高い、目にあまる、耐えがたい光景だわ。認識はそれぞれ違って当然、あなたには私がそう見えた、私にはあなたがこう見えてる」

「……いつから?」

「いつ?はじめからよ」

「作戦は無駄に終わったってことか、手間暇かけたわりに得られたもは少ないかもって今更ながらに思っただろうね」

「私のすべてよ、あなたは」

「僕は一人の人に固執しない、いいや無理なんだ。病気だよ」

「私を見られるの、その目で、それとも、ねえ、見放す?」

「……難しいね。講師の職を捨てて、店を開く。ほら、そこのビルの一階に店を構える。従業員を二人、忙しいから三人から四人か、シフトを組まないといけないし、パン作りは毎日だ。商業ビルは年中無休」

「私を雇って」

「それはできない」

 リズミカルなピアノソロが流れる。店内のミュージックとやっとご対面。

「雇いなさい」

「君との結婚が師匠の意識に勝手に上がってしまう。仕事に当分は集中するつもり、決めたんだ。僕らしくないけれどね」

「誰に断って決めたのよ」

「僕に断った、昔の僕に。……君のお父さんへの気遣いを取り払ったのさ、頼っていたのは僕ではなくて、君たちの家族だ。表向きは僕が利用していた風だったけれど、よくよく改めて考え直すと、僕の性格が利用されていた、たぶん君の気持ち、僕に対する想いが先行し、お父さんへ、それから圧力が僕へと伝わり、関係性が構築したんだろうってね」

「達観しないで。軽薄でいて、不躾で、そっけなくて、たまに優しくて、口数が少なくて、たまに面白くて、物に欲深くって、実は人ごみが嫌いで、私のことを気遣って、泣きそうになったら手を差し伸べて、ギリギリの判断が上手で、車の運転は少し臆病で、でも安全運転で、だけど観覧車には平気な顔して乗ってくれて……、付き合いが長いからって、わざと反目した態度で私と距離をとって、パパの顔色を窺っても本心は隠していて、何でも聞かれたことは言葉が足りないけれど全部真実で、だから、それは、もうね、ありったけ、私はなにもか、受け止める覚悟はずっと前からできあがってます、そうは言い出せなくて今日まできちゃったのよ。……私と籍を入れなさい。いや、あなたが望むなら形だけでもいい、メモ用紙に名前と生年月日、住所、判子、私の履歴の隣に書くのさ」

「他の女とまた付き合うかもしれないのに、しかも婚約でもない、君が求める紙はただの子供のお遊びだよ?」