コンテナガレージ

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本日はご来場、誠にありがとうございました4-3

「停電のあの日、私はあなたと同じ光を見た。ブルーとも紫ともいいがたい、色だったわ。綺麗だった、空に届いて光が居場所を見出した。みられたの、あなたと視線の先を合わせられた。それだけで十分だし、そこで理解した。ああ、私はあなたの視界を外れても、あなたが見たものがみたいのだと。透明な縄を振り回した私を消し去ったわ。そうしたら、もう、契約はどうでもよくなった。……パフォーマンスで体の欠損を演じたこれまでに、人の本心が透けて見えたの、誰もが自らの居場所が最優先だって。だから、私はあなたを見てる景色ぐらいの共有で、引き下がって見つめるの。いいよ、どこへでも誰の元でも行ってよろしい。けれど、一度だけ紙に、神に、誓うの、私と。私たちの神に。ホテルなんかに置いてある本じゃなくって、薄いメモ帳に、こすれば消えるシャープペンで、燃えてしまう変哲のない手帳の空欄に……書いて欲しいんだ」

「……信じてもらえないかもしれないけど、あの日、本当に食事は相手の仕事の、それこそパンの相談だった」

「あなたが喋る言葉が真実よ」

「僕が嘘を言ってもかい?」

「明らかな嘘、それを話す、あなた。基点はやっぱり、どうしてもあなたなの」女性は言う。「重たいって思ったでしょう?」含んだ笑いが蝶のように羽を広げる。ひらり、ひらり、ゆらうゆらう、とたゆたう。

「適わないなあ」

「叶えてよ、私の願い」

「限りなく、薄い用紙に書いても許してくれる?」男はきいた。

「ええ、一度結ばれたの。この目で見たの、捉えたの。二つの名前が並んだの。他に何を要求するかしら?」

「このまま一人だよ、たぶん。君は誰かに説明ができる?君のあり方を周囲の状況を」

「ええ。苦しんでる常識にとらわれてる、その人たちが送る無秩序な視線、接触、投げかけなど、私に通用すると、思う?拡散した雲の白、それとも晴れ渡る空の青、いいえ、すべて吸収する私は、黒。私は私にしか見えない意識で満たされてる、あなただって気がついてる、だから定常を嫌う、すわりが悪いのよ、同じ場所はそもそも過去と未来との中間、時間の経過と連れ添って進まなくては、前後左右の方向性は予測不可能だわ、だって、そうでしょう?進むばかりが道ではないの」