コンテナガレージ

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本日はご来場、誠にありがとうございました5-13

「私に、いいたいことがあるでしょう?」稗田が尋ねた、改まった声。

「先週も聞いた質問だ」

「心境は、だって、移り変わる。相場が決まってるんだから」

「甘ったるい喋りも心境の変化がもたらしたあなたであるから、私のここまでの印象」

「抜け目がない、それは嫌悪の対象だって、わかっているくせに。もっと後輩をいたわるべき」

「話が飛んだ」

「回答をはぐらかしたのは、そっち」

「……私には生命が宿った、一時的に。その時期はたぶんあなたの付き合う時期と重なっていた。驚かないでくれる、最後まで言わせて。誰のためでもなかった、私のためだ、生命を一つ、いいえ一人殺したの。はい、殺人ね。痛みと心労は日を追って回復に至る。生きている証拠と言い換えてもいい。とにかく、休暇を最小限にちょうど夏休みの時期と重なったのが、あなたにもっとも身近で最も漏洩を懸念した人物と何食わぬ顔で平然と今日まで顔を合わていられた。我ながら演技の引き出しに感服するわ。ただ、勘違いはよして欲しい。あなたとは違う、私は一人が好きだった。ええ、あの人も一人が好きだった、重なり合う円がたまたま引力の影響からか、引き寄せられたの互いに、きっかけは何気ない店を出るタイミングがそれこそ重なった。利害の一致は無意識に働き、なおかつ意思疎通だって目配せ一つで分かり合え、成否が知れた。複雑な心理を排除したのだ、間違いなく単純な動機、質問はひとつ、回答ははいかいいえで読み取れる、見つめ返す瞳の強さでそれは測れた。勘違いや同情は受け付けない、怒りだったら思う存分、受け入れる覚悟。ただし、私たちは二人とも、人の所有物に手を出した。あの人をあの人が建てた自宅で待つ人物が行方不明で所在が知れないあの人の現状にありながら、平然と飄々と心配を二の次に自らの生活に引き戻ろうとも、反論を企てる権利や立場には、決して本音を語る許可が下りてさえいても、そう、発言は内部に、喉の奥で押しとどめるしかないんだ」