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私は猫に石を投げるでしょう4-2

 私の会社においてミスは全面的に他の社員が補う。翌日に納期を延ばして、新たな作品を提供する仕組みを構築していた。よって、クライアントに二日の猶予をいただく。しかし、社員には一日の期限を設けた仕事を行う取り決め。発生したミスは、全面的に、撤回どころか、そのミスを上回る仕事をクライアントに提示する方式を取る。すると、ミスの発生という事実は残ったままであっても、クライアントの目的は売れる商品のデザイン、目を引くデザイン、商品にあったデザインは達成してしまえる。失敗を引きずることではなくてより良い仕事の提供が要求なのだ、と大方のクライアントは納得と満足で私のコンセプトを受け入れてくれる。ただ、なかには反発もある。失敗のデザインを残しつつ、改良を加えてくれないかというクライアントに対しては、デザインの決定は短期。例外はない。人の印象は目に飛び込んだそのまさにいまの言葉に変換不可能な瞬時の感覚がもっとも大切である。それをあれこれとこねくりまわして理論や論理、デザイン性を語るのは後々の話で、もっと言えば良い物に対する賞賛は尽きないのだから、と説明を施す。こうしてクライアントに新しいデザインをそこで受け入れてもらう。この説明であっても、首を横に振れば、私はキャンセル料を支払い、早急にパートナーを解消する。事後処理は新たに設けた部門が対応を担う。

 こうして仕事が舞い込むにつれて、抱える仕事は増えてしまう。大きな企業というのは得てして、貪欲に勢力の拡大のみを目的としてその体格に膨れ上がったわけでないのだと知れた、真島マリである。

 ペットボトルの水をバッグから社長室に向かうまでに取り出す。エレベーターを降りた六階フロアで人に出会うことはない、私だけだ。

 セキュリティを抜けて私の部屋に落ち着く。席に着いて水を流し込み、一日に仕事を確認する。椅子はどこにでも売っている安物の油圧式の灰色の椅子。デスクはシンプルなつくりの天板とそれを支える支柱が四隅に取り付いた、中古の家具だ。引き出しはない。デスクにはPCと目を通すべき書類と完了の二つを保管する上部が空いたケース、それにメモ帳とペン。バッグはデスク取り付けたフックにぶら下げて、まるで一社員となんら遜色ない佇まいである。狙ったわけでも、社員に擦り寄ろうという魂胆でもない。必要だとは思えないからだ。高級な製品に身を包み、それらを使用する人材に対して、私よりも劣っている、または通常の商品よりもそれを使用、着用しているからといって、中身が変わるとは到底思えないからだ。なぜなら、そういった人物は無駄な時間をそれだけ、商品購入のために割いていると私は判断してしまう。しまう、という表現は後ろ向きだが、きつい言葉でいいたくはない、私を守ったのだ。罵倒すべき対象でもないのだから、それによって言ってしまった後悔を植えつける反動を嫌った。